AI分野に多くの企業が参入しているが?
政府成長戦略が最も注目されたのは、2013年6月に「日本再興戦略 JAPAN is BACK」の1回目が発表されたときであり、回数を重ねるたびに、ページ数は増えたものの、株式市場の注目度が低下し、外国人投資家の評価も低下しました。
政府成長戦略は世の中の流行を反映するので、2017年6月に発表された「未来投資戦略2017 Society 5.0の実現に向けた改革」は、「長期停滞を打破し、中長期的な成長を実現していくカギは、近年急激に起きている第4次産業革命(IoT、ビッグデータ、AI、ロボット、シェアリングエコノミー等)のイノベーションを、あらゆる産業や社会生活に取り入れることにより、さまざまな社会問題を解決する『Society 5.0』を実現することにある」と述べました。「Society 5.0」とは、狩猟社会、農耕社会、工業社会、情報社会に続く、人類史上5番目の新しい社会を意味します。
米国のAI関連株といえば、アルファベット(グーグル)、アップル、フェイスブック、エヌビディア、IBMなどの大型株があります(図表参照)。日本でAI関連の大型株といえば、ソフトバンクグループなどがありますが、現時点ではソフトバンクグループはAIより、スマホ関連企業とみなさざるを得ません。ソフトバンクグループ同様に、M&Aでグローバル事業を強化中のリクルートホールディングスも、AIの世界的な権威であるトム・ミッチェル・カーネギーメロン大学教授をアドバイザーに、2015年にAI研究所である「Recruit Institute of Technology」を設立しましたが、人材関連企業とみなされます。
AIは企業の命運を左右する将来の成長分野だけに多くの企業が参入していますが、日本の場合、AI関連株で外国人投資家の投資基準を満たす大型株がほとんどありません。
時価総額が小さい企業ではFRONTEO、ジグソー、ホットリンクなどが自らもAI企業と株式市場にアピールしていますが、外国人投資家に訴求できていません。ビッグデータも、NTTデータ、富士通、日立製作所など多くの企業がやっていますが、コングロマリット的な事業構造に加えて、成長率が低いので、ビッグデータ関連の成長企業とはみなしにくい面があります。IoTの定義はさらに広いので、銘柄選択に困ります。
日本企業でIoT関連の大型株といえば、キーエンスや日本電産などを挙げざるを得ませんが、相対的に割安な三菱電機などもIoT関連株とみなす向きもあります。いずれにしてもIoTのど真ん中に当てはまる企業ではありません。
ところで、日本はタクシー業界の規制が厳しく、来日時に米国のUberが使えないことに不満を抱く外国人投資家が多数います。また、日本でAirbnbは使えますが、旅館業界の反対で民泊の年間宿泊件数は制限されています。
パーク24のカーシェアリング事業が伸びていますが、本業の駐車場国内事業が低調であるため、株価は下落基調でした。シェアリングエコノミーは、モノの所有にこだわらない若者の増加で、将来的に伸びると予想されますが、現時点で外国人投資家の眼に適う関連株は少ないようです。
日本の「ロボット関連株」への関心は高い
ロボットというと、ハードウェアとしてのロボットだけを指しますが、ロボティクスというとAI、IoT、ロボットなど広義の生産性向上に資する企業を指します。株価的には過熱感もありますが、日本が国際競争力を維持するロボット関連株への外国人投資家の関心はきわめて強いといえます。
日興アセットマネジメントの「グローバル・ロボティクス株式ファンド」は、年1回決算と年2回決算ファンドをあわせて、純資産が7000億円を超えました。外国人投資家からも日本は機械全般やロボット産業に国際比較でまだ強みがあるとみなされており、このファンドと同様な組入れを持つ投資家がいます。2017年8月時点で、このファンドが上位10銘柄に組み入れていた日本企業はキーエンス、日立製作所、ファナック、安川電機、東京エレクトロンでした。
このファンドはグローバルに投資できるにもかかわらず、上位10組入銘柄のうち半分を日本株としているのは、日本がロボティクス分野に強みを持つからでしょう。安川電機はかつて地方(本社は北九州市)の重電企業とみなされていたことがありましたが、いまやグローバルなロボット企業とみなされるようになり、ブラックロックも大量保有報告書を2017年6月に出しました。
日興アセットマネジメントは、日本株だけのロボティクス株に投資する「ジャパン・ロボティクス株式ファンド」も運用していますが、2017年9月末に純資産が600億円を超えました。
同ファンドの上位組入は、2位のキーエンスより上に、搬送機械を得意とするダイフクが1位となっています。私は2017年7月に、工場敷地面積を2.5倍にしたばかりのダイフクの上海工場を見学したことがあります。4万平方メートルの新工場で稼働しているのは半分程度でしたが、2〜3年以内にフル稼働にしたいと聞きました。
ダイフクは、中国国有企業の液晶・半導体の積極投資から恩恵を受ける数少ない日本企業で、中国の空港建設の拡大や、Eコマースの普及からも中長期的に受注の拡大が見込めます。中国は生産性向上のために、日本の機械を必要としており、工作機械受注でも中国からの受注が高い伸びになっています。
菊地 正俊
みずほ証券エクイティ調査部 チーフ株式ストラテジスト