百貨店の免税売上は回復傾向となったが・・・
2012年に836万人に過ぎなかった訪日外国人数が、2016年に過去最高の2400万人と3倍近くに増えました(図表)。ビザ緩和、受入体制の整備、LCC(Low Cost Carrier)の規制緩和などを背景とするインバウンド促進策は、アベノミクスの大きな成果といえます。政府は2020年2000万人としていた訪日外国人数の目標を前倒し達成したため、2020年4000万人、2030年6000万人と引き上げました。
[図表]訪日外国人数の推移
外国人投資家も、人口が減る日本にあって、インバウンド政策は中長期的な重要政策とみなしています。訪日外国人旅行者による消費額も、2012年の1.1兆円から2016年に3.7兆円と3倍以上に増えました。これは名目GDPの個人消費の1%強に過ぎませんが、日本の消費は2016年度に約1兆円しか増えていないので、国内消費の増加額に対するインバウンド消費の寄与は捨てたものではありません。
国別外国人の消費額では中国人が約4割を占めましたが、2016年から海外で購入した高額品の中国国内への持ち込みが厳しくなったため、中国人1人当たりの消費額は前年比2割近く落ち込みました。いわゆる「爆買い」が収束しました。
百貨店協会は2009年より外国人旅行者向けの免税売上を発表していますが、2016年の売上は前年比5%減の1843億円でした。しかし、前年の水準が低かったこともあり、2017年に入ると、百貨店の免税売上は回復傾向となり、7月は前年同月比55%増となりました。
ただし、百貨店は地方店の閉鎖など、経営環境が厳しいと認識されているので、株式市場でインバウンド売上の回復は評価されておらず、2017年4月に「Ginza Six」を開業したJ・フロントリテイリングの株価は、2017年9月に年初来安値を更新しました。
インバウンド関連株の好調銘柄とは?
中国人の爆買いが終わり、インバウンド関連株は好調と不振銘柄に大きく二極化しています。訪日外国人旅行者の支出はモノからコト、すなわちサービスへ変わったといわれますが、インバウンドのコト消費関連銘柄があまりないことが、外国人投資家の悩みです。
インバウンド関連の好調組の代表は資生堂です。資生堂は2016年度からセグメントとして開示し始めたトラベルリテール事業(海外での免税店事業)の2017年上期売上が前年同期比92%増、営業利益が同164%増と好調であることが評価されて、株価は2017年9月に上場来高値を更新しました。
外国人投資家は資生堂の魚谷雅彦社長の経営改革を高く評価しています。同じ化粧品のコーセーも2017年度第1四半期に、百貨店チャネルのインバウンド売上や韓国の免税販売が好調で、売上が同13%増、営業利益が26%増となり、株価は短信発表日に上場来高値を更新しました。
小売では、ドンキホーテホールディングスは2017年6月期の決算説明で、「インバウンド消費額は2017年初頭から尻上がりに増加。『バラエティ+ディスカウント+エニタイム』で、訪日客の心を圧倒。『コト消費』の本命として、SNS人気も相まって別次元へ進化中」と述べました。ドンキホーテホールディングスの売上全体に占める免税売上比率は7%程度ですが、大阪道頓堀御堂筋店では約6割、新宿東口店では約4割に達します。
マツモトキヨシホールディングスは2017年度第1四半期の決算短信で、「免税対応店舗数を389店舗に増やし、パスポートデータを活用した品揃えの最適化を図る。中国での越境ECが順調に拡大」と述べました。ドラッグストアではマツモトキヨシへの外国人投資家の認知度が最も高いようです。
中古ブランド品販売のコメ兵もインバウンド需要の回復により、2017年度第1四半期の営業利益が前年の赤字から黒字に転じました。ロイヤルホールディングスは2017年度上期に、機内食事業や空港ターミナルのコントラクト事業が好調で、営業利益が同47%増となりました。ロイヤルホールディングス傘下のてんやで、海外では高級な天ぷらがワンコインで食べられるのは外国人にとっては驚きのようです。
羽田空港の施設管理などを行なう日本空港ビルデングも、国際線の航空旅客数増加の恩恵を受けて、2017年度第1四半期の営業利益が同62%増でした。ANAホールディングスの2017年度第1四半期の売上と営業利益は過去最高となり、株価も右肩上がりです。