日本が出遅れている「EV(電気自動車)・自動運転」
自動車関連といえば、以前はトヨタ自動車やホンダと、フォルクスワーゲンやGMなどを比べていればよかったのですが、米国のEV(電気自動車)専業のテスラ、自動運転を開発中のアルファベット(グーグル)など異業種と比べる必要が出てきました。
2017年前半の日本の自動車株が不振だったのは、米中の自動車販売がピークアウトしているとの懸念に加えて、日本の自動車メーカーはEVや自動運転で出遅れているとの見方が出たためです。
テスラのショールームは東京でも青山にあり、私も試乗したことがありますが、その加速性能に驚きました。東京でテスラが走っているのを見たことはほとんどありませんが、サンフランシスコに投資家訪問に行ったときなどにはよく見かけました。
最も驚いたことは、2017年7月に中国の深センを訪れたときに、街のあちらこちらに電気自動車の充電器があり、バスやタクシーの多くがEVになっていることでした。中国の大都市では大気汚染が問題になっていますが、深センの空が青空なのにはさらに驚きました。
中国政府の「自動車産業中長期発展計画」の脅威とは?
中国政府はガソリン車で日本や欧州のメーカーに敵わないことを知っているので、国策としてEVで世界覇権を握ろうとして、EV普及策を強力に進めています。
中国政府は2017年4月に「自動車産業中長期発展計画」を発表し、部品・裾野産業の発展や中国ブランドの育成などを通じて、2025年に世界自動車強国入りを目指しています。英国とフランスが2040年にガソリン車とディーゼル車の販売を禁止する政策を打ち出したのと同様に、中国政府も化石燃料車の生産・販売を禁止することを検討し始めると報じられています。
中国のEV販売台数は2016年の57万台から、2020年に200万台に増えると予想されています。いまや中国の自動車販売台数は3000万台に近づこうとしているので、200万台は1割未満ですが、日本の自動車販売台数が近年500万台前後で横ばい推移していることに鑑みれば、200万台は大きな数字です。
日本は国策として、燃料電池車を推進し、水素ステーションを増やしていますが、世界的にみれば、ガラパゴス化しつつあります。世界の二大自動車市場である米中がEVを推進しているなか、日本が燃料電池車を推進しても展望はありません。私が2017年春に欧米投資家を訪問したときには、日本政府・自動車メーカーの戦略ミスを指摘する声が多く、一部のディープバリュー投資家を除いて日本の自動車株を買いたいとの声は皆無でした(ただ、2017年後半には、出遅れ株として自動車株を見直す動きが外国人投資家から出ました)。
EVには電池の持続性や電池材料としてのコバルト不足などの課題も多く指摘されていますが、EV戦略の出遅れは日本の産業にとって痛手といえましょう。ただ、多くの機関投資家にとって企業収益の評価期間は3〜5年なので、いまEVの収益を株価に織り込むのは時期尚早との指摘もありました。
日本はテクノロジー産業で米中に劣後しつつあるため、政府は虎の子の自動車産業を守るため、自動運転の開発を支援しています。政府は2017年6月の「未来投資戦略2017」で、国際的な制度間競争や国際条約に係る議論も見据えつつ、2020年ごろに完全自動走行を含む高度な自動走行レベル3以上の市場化、サービス化に向け、制度整備の議論を加速し、2017年度中に政府全体の制度整備の方針をまとめるとしました。
レベル3とは、運転の加速・操舵・制動をすべて自動車が行ない、緊急時のみドライバーが対応する状態をいいます。
日本でも特区で自動運転の実証実験が始まっていますが、米中なら自動運転の実証実験で万が一、人が亡くなっても仕方ない代償と受け止める一方、安全を重視しすぎる日本では、実証実験で人が大怪我をしただけで社会が大騒ぎになって、自動運転の開発が遅れるとの懸念も出ています。
菊地 正俊
みずほ証券エクイティ調査部 チーフ株式ストラテジスト