「低失業率下での低インフレ」は世界的な傾向
2017年に入って、有効求人倍率は1.5倍超と1974年2月以来の高水準となり、失業率は3%を下回っているのに、なぜ正社員の賃金が上がらないのかと、外国人投資家から繰り返し聞かれました。
失業率が低下しても、賃金上昇率が高まらず、コア消費者物価上昇率も日銀が目標とする2%にはるかに届かないのは、①賃金が相対的に低い非正規労働者数の高止まり、②賃金が相対的に高い高齢者の退職、③介護や保育など労働需要が極めて強い分野での賃金は政府が決めるが、財政事情が厳しい政府が賃金を抑制しているため、などの理由が考えられます。
米国でも失業率が低下しても、思ったほど賃金が上がらなくなっています。世界的にシェアを伸ばすアマゾンとの競争上、値段を下げざるを得ない小売業が増えていることや、人間とAIとの競争が始まっているので、賃金やインフレ率が上がりにくくなっています。低失業率下での、低インフレは世界的な現象といえます。
とはいえ日本の労働市場が極めてタイトになっているのは事実ですので、外国人投資家は労働市場関連株に高い関心を持っています。労働市場関連の上場企業はたくさんあり、ベトナム人の介護士派遣事業を手がけているライク、人事講習派遣事業を行なっているインソースなどの事業内容は評価されますが、やはり外国人投資家には小さすぎるようです。
外国人投資家にとっての人材関連企業の本命は、時価総額が3兆円を超え、M&Aで経営もグローバル化しているリクルートホールディングスになります。リクルートホールディングスはPERが高すぎるとの指摘もありましたが、2017年8月に史上最高値を更新しました。
安倍内閣の「働き方改革」は社会主義的⁉
私は2017年2月に「今年の最大の内政課題である働き方改革」との70ページのレポート(英語だと90ページ超)を書いて、欧米投資家に安倍政権の働き方改革について説明しました。
その際、欧米投資家からは、安倍首相は残業時間の規制、同一労働同一賃金、最低賃金の引き上げなど労働者に優しい政策ばかりをなぜしようとしているのかと、批判的な反応が出ました。優しい政策と同時に、先述した解雇規制の緩和、労働力移動を高めるような政策が必要と言われました。安倍内閣の「働き方改革」は社会主義的で、企業の労務政策に関与しすぎではとの指摘もありました。安倍首相は民進党寄りの連合を自民党に取り込みたいがために、労組寄りの労働市場改革を進めているのかもしれません。
一定以上の年収の専門職に残業代が支払われず、労働の成果に応じて年収が決まる「高度プロフェッショナル制度」に対しても、外国人投資家は関心があります。同制度はかつて「ホワイトカラー・エグゼンプション」と呼ばれており、外国人投資家もこちらの呼称のほうに馴染みがありますが、野党やマスコミから「残業代ゼロ法案」とのレッテルを貼られてしまったので、政府は呼称を変えたようです。
この制度を導入することは、2007年の第1次安倍内閣時代からの悲願でしたが、米国では当たり前の制度なので、なぜこんな基本的な法案が10年以上成立しないのかと尋ねられました。