「米国のような解雇の自由化はむずかしい」
外国人投資家は日本の労働市場改革に対して極めて強い関心を抱いており、労働市場改革は安倍首相が掲げる構造改革の3本目の矢の柱とみなされています。また、日本企業は雇用を削減するときに海外拠点の労働者はすぐクビにするのに、日本の従業員は配置転換や子会社への転籍などで済ますことが多いことを、人種差別で不公平と思っている外国人投資家も多くいます。
私は10年以上にわたって、外国人投資家から「日本で解雇規制の緩和はいつ行なわれるのか」と聞かれてきました。そして、いつも「米国のような解雇の自由化はむずかしい」と答えてきました。
解雇規制の緩和と並んで、外国人投資家から頻繁に聞かれるのは、日本は労働力人口が減るのになぜ移民を認めないのかということです。労働力人口は2016年の6648万人から、2065年に4000万人弱と、50年間で約4割も減ると予想されています。いまなら日本はアジアのなかで先進国なので、他のアジアから労働者が来てくれるものの、将来的に日本のアジアにおける経済的地位が低下したら、日本に働きに来たいと思うアジア人はいなくなると指摘されます。
一方、保守的な安倍政権は、移民を明確に否定しています。国際競争力の向上につながる高度外国人材、局所的な人手不足に対処するための外国人技能実習生制度の拡充は行なっていますが、全般的な人手不足対策としては、生産性向上に加えて、女性や高齢者の労働力化で乗り切ろうとしています。
ただ、安倍内閣は移民を否定するものの、静かな、または暗黙の移民が進んでいるとの指摘があります。日本の総人口は2008年から減少に転じており、2016年は前年比約16万人減りましたが、その内訳は日本人の30万人減、外国人が14万人増でした。すなわち、日本人の減少の半分近くを外国人の人口増加が補いました。
「静かな移民」をビジネスにする企業
2016年10月に、外国人労働者数が108万人と、初めて100万人を突破し、全就業者に占める外国人労働者の比率が1・7%に高まりました。国別の外国人労働者では、中国人が32%を占め、次いでベトナム人の16%、フィリピン人の12%でした。
コンビニや居酒屋で、日本語がたどたどしい外国人労働者を見かけることが多くなりましたが、そのほとんどは留学生と推測されます。留学生は週に28時間まで働くことが可能です。2016年に成立した入管法と外国人技能実習制度法の改正によって、介護人材を外国人技能実習制度で受け入れることが可能になり、実習期間も最長3年から5年に延長されました。
自民党は介護、ホテル、建設など人材がとくに不足している業種で、相手国と二国間協定を結んで、外国人労働者を大量に招き入れる制度も検討していますが、まだ実現はしていません。
一方、国家戦略特区の大都市圏で、外国人による家事支援が可能になりました。インバウンドの規制緩和で大きな役目を果たした菅義偉官房長官は、自らの選挙区である神奈川県の特区で、2017年2月から外国人による家事支援サービスが始まり、女性活躍を通じて経済成長につながると述べました。パソナグループやダスキンなどが、外国人による家事支援事業に乗り出しました。東京在住の外国人投資家はこの制度を利用したいと思っている人が多いため、関連銘柄に関心を示しています。
2008年に自民党の外国人材交流推進議員連盟が、50年間で1000万人の移民受け入れを提言したことがありました。提案を中心的にまとめたのが当時の自民党幹事長だった中川秀直氏で、2006年に『上げ潮の時代GDP1000兆円計画』(講談社)という著書を出しました。安倍政権はGDP600兆円を目指していますが、それを実現する一策として、同様の外国人受入拡大策を策定すれば、ポジティブサプライズとなり、外国人投資家の日本株買いが急増するでしょう。ただ、現実的にはそうした政策は考えにくいところです。
菊地 正俊
みずほ証券エクイティ調査部
チーフ株式ストラテジスト