前回は、IoTが「バリューチェーン構造」にもたらした変化を探りました。今回は、バリューチェーン全体の整合性を確保する「手法」とは何かを見ていきましょう。

「統合的なバリューチェーン分析」が可能に

バリューチェーン全体をプロセスの観点からモデル化する手法として、APICS SCCの提唱する「xCORモデル」がある。

 

APICS SCCは、米国のSCMに関する専門家団体サプライチェーンカウンシル(Supply Chain Council:SCC,1996年設立)が前身である。2014年にAPICSとSCCが合併し、APICS傘下でSCOR等のプロセス・フレームワークや、SCMの設計・改善に関する研究・手法やツールの開発と提供を行う部門としてAPICSSCCが誕生した。

 

APICSSCCは、サプライチェーンのプロセス可視化・評価・改善を図るSCOR(Supply Chain Operations Reference-model)を皮切りに、バリューチェーンを構成するツールを次々と開発し、発表してきた。その体系が「xCOR(エックスコア)」で、下記の図表1の通り4つのプロセス参照モデルが定義されている。

 

[図表1]xCORを構成するプロセス参照モデル

 

「xCOR」の優れた点は、バリューチェーンを構成するサブ・プロセスチェーンの記述方法を共通化し、統合的なバリューチェーン分析を可能にした点にある。

 

「xCOR」は「プロセス把握」と「プロセス性能評価」の2つの側面を持った手法で、「階層構造型プロセス分析手法」で構造・プロセスという定性面を分析し、管理指標(「メトリクス」)によるビジネス活動の実力値を定量的に把握し、事業を可視化し、改革領域と方向性を導き出す手法である(下記の図表2参照)。

 

[図表2]xCORの懸念

 

「xCOR」の最初の構成モデルであるSCORは、日本でも2000年初頭から広がり始め、活用例が増えてきている。日本では、中部電力が電力業界初のSCM改革でSCORを活用した。SCORのメリットをバリューチェーン全体に適用するために、APICSSCCは、サプライチェーンと連携する、設計プロセスや営業プロセス、さらにプロダクトライフサイクル管理へとツールを拡張した。

 

「xCOR」は、「プロセス」を3つの階層に分けて定義している(下記の図表3参照)。プロセスを検討する目的によって、「レベル1」(⇒主としてビジネス構造の検討に活用)、「レベル2」(⇒レベル1を1段詳細化したもので、主としてビジネスプロセスの検討に活用)、「レベル3」(⇒レベル2をさらに詳細化したもので、主として、業務構造や部門間の役割設計に活用)「レベル4」、「レベル5」と詳細化することを可能とすることにより、記述の一貫性と網羅性を持たせている。

 

[図表3]「xCOR」の構造

現段階では、参照モデルにより、表記に違いがある (例SCORでは、「プラクティス」、PLCORでは「ベストプラクティス」)
現段階では、参照モデルにより、表記に違いがある
(例SCORでは、「プラクティス」、PLCORでは「ベストプラクティス」)

 

また、「xCOR」4つのモデルは、下記の図表4のように、関係する4つのプロセスチェーンを統合し、事業構造を把握できる枠組みとなっている。

 

[図表4]『xCOR』の構成モデルと相互関係

出典:APICS SCC
出典:APICS SCC

xCOR以外に分析のプロセスモデルを作成している例

「xCOR」以外にも、独自にバリューチェーン分析のプロセスモデルを作成している例もある(下記の図表5参照)。この図に示す、「Xチェーンテンプレート」は、バリューチェーンの構成領域毎に標準型の業務プロセスを整備したプロセスモデルである。

 

[図表5]Xチェーン全体プロセステンプレート(BtoB)

出典(株)日本ビジネスクリエイト
出典(株)日本ビジネスクリエイト

 

このモデルは、(株)日本ビジネスクリエイトが、SCOR等の活用を踏まえ、自社独自に設定したモデルで、事業診断やバリューチェーン改革に活用されている。(開発の背景をいえば、SCORだけでは、描ききれないケースが増えてきたため、独自開発したものである)。

 

このモデルは、「SCOR」の併用も想定して、整合をとれるように工夫している。「xCOR」と同様の三階層モデルだが、最初からバリューチェーン全体を意図してつくられているため、シンプルで活用しやすい構造になっている。

 

ビジネス全体の骨組みを示す「レベル1」(例えば、「事業部」全体)、事業部門の次の階層である、「部レベルの仕事」の固まりを「レベル2」業務単位とする。さらに、その「部」の下位に位置する「課・グループレベル」の業務単位を表す「レベル3」の形に整理されている。

 

事業全体を一枚のフローで表すには「レベル1」と「レベル2」が、各チェーン毎のプロセスを検討するには「レベル3」の標準プロセスフローが有効である。

 

さらに、事業構造は、「BtoC」型ビジネスか、「BtoB」型ビジネスかによって異なるが、Xチェーンテンプレートは、これらの2タイプについて準備している。図表5に示した標準テンプレートは「業務用ビジネス」のXチェーン全体のプロセス(レベル2で表現)。以下の図表6に示したのは、この中の「デマンドチェーンのプロセスモデル」(部分)であり、その下の図表7は「デマンドチェーンの業務機能例」をまとめたテンプレート(部分)である。

 

[図表6]デマンドチェーンのプロセスモデル(部分)

出典(株)日本ビジネスクリエイト
出典(株)日本ビジネスクリエイト

 

[図表7]デマンドチェーンの業務機能例(部分)

出典(株)日本ビジネスクリエイト
出典(株)日本ビジネスクリエイト

 

実際の当該事業のバリューチェーンの把握は、このテンプレートをもとに関連する部門のキーマンと、当該事業に合致するか否か、不足しているプロセスの有無等を確認しながら作りこむ。

 

現状プロセス可視化活動で、事業全体のプロセスを把握・分析する場合、複数部門のキーマンに集まっていただき、それぞれの担当領域のプロセスを聞き出し、それをつなげて行く作業をすることになるが、参照すべきプロセスモデル、テンプレートがあると、プロセス可視化は極めて短時間で可能になる。

本連載は、2018年7月3日刊行の書籍『IoT時代のバリューチェーン革命』から抜粋したものです。その後の税制改正等、最新の内容には対応していない可能性もございますので、あらかじめご了承ください。

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長谷川 建一

扶桑社

シティバンクグループのニューヨーク本店にて資金証券部門の要職を歴任し、日本に「プライベートバンク」を広めた第一人者である著者。現在は香港に自ら設立した『Wells Global Asset Management Limited』の最高経営責任者と…

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