前回は、バリューチェーンを構成する「4つのプロセスチェーン」について説明しました。今回は、IoT前とIoT後では「バリューチェーン構造」がどのように変化したのかを見ていきます。

最も大きな違いは、顧客との接点領域・境界領域

ここで、IoTがバリューチェーン構造にもたらした変化を見てみたい。

 

まず、IoT以前のバリューチェーン構造を示したものが、以下の図表1である。また、図表2は、IoT以降のバリューチェーンの構造を示したものである。

 

[図表1]バリューチェーンの基本構造(IoT以前)

 

[図表2]バリューチェーンの基本構造

 

IoT以前と以後のバリューチェーン構造の最も大きな違いは、顧客との接点領域、境界領域の違いである。

 

IoT以前のバリューチェーンは、顧客との境界で、接していることが殆どであった(例外は、BtoCの場合、空調機器設置、水回り設備のような工事付き商品。BtoBの場合は、工作機械、プラント等の工事付き商品だと、顧客の家屋や工場内での組立調整がある)。

 

この記述方式は、バリューチェーンをプロセス的に俯瞰して把握する場合に有効である。参考として、IoTを織り込んだバリューチェーン構造は、上図のようになる(図表2)。上に示したバリューチェーンの構造とは顧客領域が大きく変わっていることが理解できると思う。

 

バリューチェーン全体を俯瞰すると、上記のような役割を果たすべく、それぞれのチェーンが、お互いに関係を持ち、影響しあいながら活動を続けていて、この全体の機能達成の度合いで、事業の業績が決まるという仕掛けになっている。

 

それぞれのチェーンは、チェーン単位で一連の仕事として役割を果たしていて、且つお互いのチェーン間でそれぞれの仕事の水準の影響を受けあっているという構図が読み取れる。

 

このバリューチェーンの本質は「つなぎ部分のマネジメント」に焦点を当てやすいという部分にある。どの企業でも、部門単位でマネジメントしているため、このつなぎ部分に対するメスが入れにくいのが実態である。

 

また、エンジニアリングチェーンで問題が起きた原因が、同じチェーン内にあれば部門レベルで手が打てるが、これがデマンドチェーン側やサプライチェーン側のように部門間に原因がまたがると、他部門に改善・改革を依頼することになる。

 

そうすると、受けるほうは自分の仕事では不具合を感じなかったり、その部門から見ると、それがベストだったりして、なかなか他部門に動いてもらうのは難しいのが実態である。

 

ある企業では、商品企画を技術部門が担当しているため、本来の市場のニーズ情報がつかめず(これは営業部門の機能だが、ニーズ情報だけでは顧客に検証することはできないし、それを技術部門に渡しても、技術部門はスタンスが違うため、顧客寄りの感性を持てないことが多い)、技術者から見て作りたい商品を作ってしまうため、商品がヒットしなかったということを繰り返していた。このようなケースは、実に多くの企業で見られる現象である。

 

バリューチェーンの診断はこの4つのチェーンを顧客視点、プロセス視点、全体最適視点で概観し、そのチェーンの弱いところを見つけて、それを全部門で共有して、改革していくところに特徴がある。

 

バリューチェーンの全体像を再設計し、それぞれのチェーンの関係を明確にするとともに、各チェーンの構造を作りこみ、業務機能を定義し、このチェーンを運用&管理していく上で最適な組織を設計して、各部門に役割を再配分する。

 

さらに、それぞれの部門の「使命」「責任&権限」「管理項目」を定義し、その実現に向けて、取り組むべき課題を明らかにし、課題間の関係や、難易度等を考慮して、実現のシナリオを描き、それに沿って各組織が自らの改革を推し進めていく計画に落としこみ、その推進を図っていく。これがバリューチェーン改革活動の概要である。

バリューチェーン構造の素早い可視化には工夫が必要

ビジネス活動の診断には、現状の正しい把握が欠かせない。ビジネス活動を把握する方法は、過去からいろいろな方法が提案され、活用されている。

 

代表的な方法は、計数分析(貸借対照表、損益計算書、キャッシュフロー計算書、各指標推移分析、前年度実績比較等々)である。この方法は定量的に表現できるため、客観性も高く、どの事業にも適用できるという特徴を持っている。現在も、多くの企業で実施されている。

 

ただ、ビジネスの構造と照らし合わせる仕組みを持たないと、改革にむけて各関係部門が何をどうすべきかを読み取るのは難しい。現場で起こっている事象につながっていないからである。

 

1993年の『リエンジニアリング革命』(M.ハマー、J.チャンピー:原題REENGINEERING THE CORPORATION)を契機に、ビジネスをプロセス視点で分析し、改革につなげる、『プロセスアプローチ』手法が発展してきた。

 

サプライチェーンマネジメント(SCM)やエンジニアリングチェーンマネジメント(ECM)は、「プロセスアプローチ」が発展した概念であり、バリューチェーンという見方は、これらを統合的に捉え、ビジネス全体を俯瞰するために、拡張したアプローチといえるだろう。

 

対象事業の「事業構造」を何もなしで一から把握するには、それなりに時間がかかる。

 

開発プロセスや生産管理プロセスは、標準プロセスを持っている企業も多いが、組織関連系の部分(業務のつなぎ部分)は曖昧なケースが多い。また、業務分掌は、範囲定義であって解釈が一義的にならないことも多い。

 

このため、日々変化していく事業環境に対応して仕事の仕方を変えていく結果、極端な場合、仕事が人について移動するため、職務分掌とそぐわないケースに出合うことも多い。あるいは、その業務・作業の範囲の表し方が、部門によってバラバラであるケースも多い。こういう状況が多いため、現状のバリューチェーン構造を素早く可視化するには工夫が必要である。

 

ここに、バリューチェーン分析の手法・ツールを整備する必要性がある。バリューチェーンの改革は、ビジネスを遂行するための組織全体にかかわるものであり、上記のようなステップを、各部門が、独自手法で進めていては、全体がつながらず、バラバラの分析になりかねない。全体を統合するためには、バリューチェーン全体の整合性確保を射程に置いた手法・ツールの整備が欠かせない。

 

最近は、そのための手法も充実してきている。代表的な手法が、「xCOR」と「Xチェーンテンプレート」である。分析の手順詳細に入る前に、次回は手法の紹介を行っておこう。

本連載は、2018年7月3日刊行の書籍『IoT時代のバリューチェーン革命』から抜粋したものです。その後の税制改正等、最新の内容には対応していない可能性もございますので、あらかじめご了承ください。

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長谷川 建一

扶桑社

シティバンクグループのニューヨーク本店にて資金証券部門の要職を歴任し、日本に「プライベートバンク」を広めた第一人者である著者。現在は香港に自ら設立した『Wells Global Asset Management Limited』の最高経営責任者と…

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