IoT活用の源流である「ドイツ」と「アメリカ」
IoT活用を大規模に、組織的かつグローバルに展開する活動は、ドイツ、アメリカ、フランス、中国、イギリス、日本等で進められている。しかし、それらの取り組みの大本を探ると、源流は2つの取り組みに帰着する。
一つはドイツ発で、ドイツ産官学一体で推進している「インダストリー4.0」の取り組みである。
もう一つは、アメリカGE(ゼネラルエレクトリック)社が提唱する「インダストリアル・インターネット」である(以下の図表1参照)。
[図表1]『IoT 活用型バリューチェーン改革』の2つの流れ
図表1に示すように、両者は、IoTは共通だが、アプローチは大きく異なっている。
結論的に言えば、「インダストリー4.0」は、IoTをベースにしたモノづくり及びサプライチェーン改革であり、「インダストリアル・インターネット」は、ビジネスモデル及びバリューチェーンの改革である。
両者の違いを理解することは、IoT時代のバリューチェーン、とりわけ、日本企業の今後の取り組みを考える上で、非常に有効である。以下に簡単に内容を要約したい。
国内雇用の強化等を目的とする「インダストリー4.0」
<インダストリー4.0とは>
「インダストリー4.0(Industry4.0、ドイツ語表記ではIndustrie4.0)」はドイツ語で第4次産業革命の意味で、ドイツの主要企業を含む産官学の多くの企業や団体が参加し、新たなモノづくりの形を追求する活動である。
なぜ、モノづくりなのか? もともと「インダストリー4.0」の源は、2006年からドイツ政府が強力に推進してきた「高度技術戦略」にある。この戦略の目的は、革新的な研究を重ねることで技術的なイノベーションを生み出し、ドイツの高い競争力を堅持することにある。
中小企業が多いドイツでは、国内にモノづくり企業や拠点を残すため、製造コストを『国』レベルで改善していく必要があった。それにより、モノづくり大国ドイツの伝統を維持強化するとともに、国内雇用を維持することを狙いとしている。さらには、先進的モノづくり、及びサプライチェーンの仕組みを、ISO9001のように『国際標準化』していく。インダストリー4.0は、そのための国家戦略なのである。
では、4.0とは? 「インダストリー4.0」とは、第4次産業革命の意味である(以下の図表2参照)。
[図表2]インダストリー4.0の位置付け
第1次産業革命とは、18世紀後半に始まった水力や蒸気機関などによる工場の機械化を指す。第2次産業革命は、19世紀後半から始まった電力の活用による大量生産の開始である。第3次産業革命は20世紀後半に始まったファクトリー・オートメーション(FA=工場自動化)による変革と位置付けられる。第4次産業革命である、「インダストリー4.0」は、「スマート工場」の実現を目指す(以下の図表3参照)。
[図表3]インダストリー4.0 狙う「スマート工場」
「スマート工場」とは、工場で用いる材料、部品や設備・機器に、IoTによりデータ連携する機能を実現し、自律的に生産計画を立案実行し、計画変更にも自動的に対応するインテリジェントな生産システムを備えた工場を意味している。日本のモノづくりの強みである「1個流し」「セル生産」は機械化され、現場(の担当者・部門)はオペレーション力よりも改善力が求められるようになる。
「インダストリー4.0」の目指す工場は、工場(建屋そのもの)、原材料・部品、生産設備等のあらゆる資源が、IoTの技術により『つながる工場』であり、『(自律的に)考える工場』(「スマート工場」)である。
注意すべきは、「インダストリー4.0」が『スマート工場の実現』という場合、『スマート工場で構成される、高度な「知性」を持つサプライチェーン』を意図していることである。工場同士がつながり、相互に自律的連携ができなければ、意味がない。要約すれば、「インダストリー4.0」とは、「IoTによる、サプライチェーンの『スマート化』」といえる。
「インダストリー4.0」は、工場の高度な自動化を標榜しているため、『高度なFA化された工場』を意図しているように誤解されている場合もあるが、実態は、新しいサプライチェーン像である。