前回は、IoT時代のバリューチェーン革命をリードする「2大潮流」について説明しました。今回は、「インダストリアル・インターネット」とは何かを見ていきましょう。

「顧客への提供価値増大」にフォーカスした取り組み

<インダストリアル・インターネットとは>

 

インダストリー4.0は、モノづくりにフォーカスした取り組みだが、IoTにより、顧客への提供価値増大にフォーカスした取り組みが、アメリカGE社(ゼネラル・エレクトリック社)が提唱する、「インダストリアル・インターネット」である(以下の図表1参照)。

 

[図表1]インダストリアル・インターネットとは

GE社ホームページをもとに作成
GE社ホームページをもとに作成

 

「インダストリアル・インターネット」とは、現在世界中に分散している生産システム・産業用機器をインターネットでつなぐことにより、全体としての効率を飛躍的に拡大する取り組みである。

 

「インダストリアル・インターネット」の重要な点は、GE社が提供する製品だけでなく、製品が搭載される『システム製品』が発生するすべての情報をIoTで把握し、『システム製品』のパフォーマンスを拡大しようとする点にある。例えば、航空機を例にとってみよう。GE社が提供する製品は「航空機エンジン」、搭載される『システム製品』とは航空機を指す。

 

GE社は、世界中の航空機にセンサーを付け、エンジンはもちろん、燃料、機体高度等の航空機運航時に発生する、ほとんどすべての情報を収集し、得られた大量のデータを解析(『ビッグデータ分析』)することで、整備が必要な箇所の早期発見や、部品交換のタイミングを最適化、さらには、燃費のよい運航条件まで提案し、顧客への提供価値を拡大することを狙っている。つまり、自社製品以外の部分までサービス対象にしてしまうわけである。

 

このようなビジネスの本質は、「モノ」ビジネス(「エンジン製造販売ビジネス」)から、「コト」ビジネス(「航空機運航効率化支援ビジネス」)にビジネス転換していることを意味している。製造業において、「モノビジネスからコトビジネスへの転換」が叫ばれて久しいが、IoT技術の進化により、ようやく本格的取り組みが可能な状況が生まれた、といえる。

 

「インダストリアル・インターネット」での重要な点は、顧客のビジネス・オペレーションを対象に、提供価値増大機会を探る取り組みであり、(ビジネス・オペレーションの仕組みを分析し、顧客へのサービス商品を企画する)「ビジネスモデルデザイン技術」が重要になる。

 

[図表2]インダストリー4.0とインダストリアル・インターネットの狙い

 

<インダストリー4.0とインダストリアル・インターネットの本質>

 

前回と今回で述べたことをまとめると、以下のようになる。

 

●インダストリー4.0は、『モノビジネス』の観点からのモノづくり・サプライチェーンの効率化であり、現場に求められる能力は、「変化対応力」、「改善改革力」である。

 

●インダストリアル・インターネットは、『コトビジネス』の観点からビジネスモデル改革を標榜しており、現場に求められる能力は、『ビジネスモデルデザイン力』といえる(注)。

(注)GEのインダストリアル・インターネットは、顧客のオペレーション情報+自社製品情報の分析から、製品改良サイクルを早める取り組みが含まれており、厳密にいえば、「モノビジネス」「コトビジネス」双方の観点から改革アプローチしている。

 

<インダストリー4.0とインダストリアル・インターネットの握手>

 

先に述べたように、インダストリー4.0とインダストリアル・インターネットは、重点が異なるものの、IoT活用によるバリューチェーン改革という点では共通している。さらに両者は、ともに3Dデジタル設計技術の基盤をバリューチェーンの基盤としてみている点でも共通している。

 

2016年3月、インダストリー4.0プラットフォームとインダストリアル・インターネットコンソーシアムの2団体が接近し、IoTの国際規格の策定にむけて協力していくことで合意した。発表後のドイツ・ハノーファーメッセは、アメリカをパートナー国に迎えて行われた。会期中にはオバマ大統領とメルケル首相による会談が行われ、製造業領域で連携していくことも発表された。

 

この動きに日本も同調し、2016年9月に、日本のIoT推進団体である「IoT推進コンソーシアム」と、「インダストリアル・インターネットコンソーシアム」、マイクロソフトやシスコなどの「オープンフォグコンソーシアム(OpenFogConsortium)」が、IoTの研究開発において連携することを発表し、日独米のIoT先進国間の相互協力体制が整うこととなった。

 

この結果、グローバルレベルでのIoT活用の取組みは、基盤を共用する新たな段階に突入している。

IoTを活かすには「自社の事業構造の可視化」が不可欠

IoT時代は、技術変化が速く、かつ、技術のビジネス構造やビジネスルールへのインパクトが大きい点が特徴といえる。

 

一方で、第2回で述べたように、IoT活用の障害となる5つの問題は、組織のトップから現場まで潜在化した形で存在している。そのためにIoT時代対応という動きはなかなか難しい。IoT活用の前提となる自社ビジネス実態への深い洞察が欠かせない。

 

「IoTとは何か?」を、ビジネスの観点からの再定義で述べたように、IoTを自社バリューチェーンに活かすためには、バリューチェーンの視点から自社の事業構造を可視化する取り組みが不可欠である。

 

「サプライチェーン部分だけのIoT適用でよい」「デマンドチェーンへのIoT活用で十分」という意見をお持ちの経営トップもおられるかもしれない。しかし、それは危険な考え方と思われる。バリューチェーンを俯瞰した上での適用を考えないと、重複が発生したり、場合によっては、IoTの活用基盤を作り直したり、ということが発生しかねないからである。

 

なぜか? インダストリー4.0もインダストリアル・インターネットも、IoT活用の根底に、3次元デジタル設計基盤を置いている。この活用基盤は、開発設計基盤として機能するだけでなく、モノづくり情報基盤、マーケティング情報基盤としての役割も担う。事実、インダストリアル・インターネットの改革は、バリューチェーンプロセス改革そのものであり、表に現れないデジタルエンジニアリング基盤が、バリューチェーンを一番深い階層で支える仕組みとなっている。

 

現在でも、IoTに取り組んでいるが進まない、という問題に共通する状況を分析すると、バリューチェーン視点からの事業構造把握のステップを抜きにして検討を進めるために、部分最適に陥ったり、着手すべきところを探すためだけに多大な労力を費やしたりしている。プロセスの特性や課題の認識なしに、IoTの的確な適用は望むべくもないのである。

 

次回は、バリューチェーンの観点からの事業構造把握の方法論とIoT活用を含めたバリューチェーン改革の方向を紹介したい。

本連載は、2018年7月3日刊行の書籍『IoT時代のバリューチェーン革命』から抜粋したものです。その後の税制改正等、最新の内容には対応していない可能性もございますので、あらかじめご了承ください。

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長谷川 建一

扶桑社

シティバンクグループのニューヨーク本店にて資金証券部門の要職を歴任し、日本に「プライベートバンク」を広めた第一人者である著者。現在は香港に自ら設立した『Wells Global Asset Management Limited』の最高経営責任者と…

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