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決算書から理論上の年間売掛金回収額を算出するには?

今回は、「売上高」と「売掛金」について見ていきます。※本連載は、有限会社竹橋経営コンサルティング取締役社長・古尾谷未央氏が「資金繰り分析」についてポイントを解説します。

企業の資金繰り改善につながる「理論値回収率」とは

これまで3回にわたり、資金繰りの基本的な考え方について説明してきた。今回からは、資金繰りと決算書のつながり等について、科目ごとに解説していく。

 

①売掛金の概要
売掛金とは、企業が商品やサービスを取引先に提供し、代金を掛けにした際に発生するものである。都度現金で決済するのは手間がかかるため、企業間では信用取引を前提として、効率の良い「掛け」が用いられているのだ。

 

多くの中小企業では、販売よりも材料などの仕入れが先行するため、売掛金の入金よりも買掛金の支払いのほうが早くなる。そしてこの売掛金は、販売先との力関係などにより、買掛金の支払いサイトよりも長くなることが多く、このタイムラグが企業経営を難しいものにしているのだ。

 

②売掛金推移表を作成する
中小企業の多くは販売先を数十社程度かかえており、それぞれ売掛金の回収条件が異なるのが一般的だ。そのため、必ずしも前月に発生した売上を、翌月に全額回収できるわけではない。

 

それでは具体的な事例で見てみよう。

 

「㈱幻冬工業」はA社、B社、C社と取引をしており、それぞれの取引金額と、回収条件は次のとおりだったと仮定する。

 

 

次に、それぞれの回収率を計算する。これは「30日÷取引先ごとの回収日数」で算出することができる。

 

 

この回収率に、それぞれの売上割合を勘案したものが、次の理論値回収率となる。

 

 

以上から、理論値回収率の合計は85.5%となり、残りの14.5%は翌々月の売掛回収となる。つまり、この数値を今月の売上高(売掛発生)に乗じ、さらに前月の未回収分14.5%を加えれば、翌月の売掛金回収額を試算できることになる。これにより、[図表1]のような売掛金推移表を作成することができる。企業の資金繰りを理解するためには、簡単でも良いので、この売掛金推移表を作成することが重要になる。

 

[図表1] 幻冬工業の売掛金残高推移表

 

この売掛金推移表を見れば、資金繰り実績を分析することができる。また月商予想を元にすると予想推移表も作成でき、こちらは資金繰り予想のベースにもなる。

 

なお、先ほど「中小企業は販売先が数十社程度ある」と述べたが、この売掛金推移表を作成するにあたり、取引先すべての理論値回収率を出す必要はない。「2:8の法則」と言い、基本的には販売先の上位20%の理論値回収率を算出しておけば、全体の80%をカバーすることができるからだ。

売掛金の未回収は経営課題を見つける絶好のチャンス

③販売先見直しのポイント
企業の資金繰り改善には、理論値回収率を高めることが有効となる。しかし、そう簡単にはいかないのが現実だ。

 

実際に資金繰りを改善するためには、販売先の見直しが必要となる。㋐与信管理上の問題の有無、㋑利益率、㋒回収条件――これら3点をもとに、経営者は「どの販売先の売上を減らして」「どの販売先を増やすのか」を検討していく必要がある。不採算先や回収条件に問題のある取引先を切り捨て、利益率と回収条件の良い取引先の売上を増やすよう地道に取り組んでいくしか方法はないのだ。

 

また、新たに取引を開始する場合は、できるだけ回収条件を自社に有利になるよう交渉すべきだ。全社員が常に「回収条件を改善させる」という意識を持つことも重要になる。

 

④決算書から年間回収額を算出する
売掛金の回収条件だけでなく、「決算書」を用いて理論上の年間売掛金回収額を算出する方法もある。その計算式は以下の通りである。

 

 

 当期売上高は、税抜決算の場合、108%を乗じて「税込」に変えて見る必要がある。ただし、売掛金は税抜決算でもかならず税込表示となっているため108%を乗じる必要がないことに注意する。

 

分析するにあたり、この理論上の回収額と資金繰り実績の回収額が大幅にズレていた場合、何らかの経費操作がなされた可能性がある。このように、決算書から年間の売掛金の総回収額を知り、売掛金残高推移表を用いて理論値の回収額を月次で把握することで、企業の資金繰りを理解できるようになるのだ。

 

⑤社長自身が未回収先を回ることが大切
売掛金が未回収となっている場合、販売先に問題があるケースと自社に問題があるケースが存在する。前者の例としては、販売先が経営不振でお金が払えない場合だ。しかしその責任は、そのような販売先に製品を販売した自社にあるとも言える。

 

後者は、販売先が「製品に納得していないため払いたくない」と主張している場合が多い。その際は、必ず社長自身が販売先を回り、お客様の言い分を直接聞き、状況を把握しなければならない。そして、自社製品の問題点を把握し、どのように改善すべきかを考える必要がある。

 

このように売掛金の未回収は、実は企業の経営課題を見つける大きなチャンスとも言えるのだ。ただ滞留している売掛金を自己資本から差し引いて見るだけでなく、企業の実態を深く理解することが大切となる。

 

今回は、資金繰り表の経常収入に関わる「売上高」と「売掛金」について説明した。企業が存続するためには売上の入金が重要となるが、その管理は非常に難しい。そのため、売掛金の管理がどのように行われているのかを見ることが、企業の実態把握にもつながるのだ。

有限会社竹橋経営コンサルティング 取締役社長

大学卒業後、中小企業金融公庫(現、日本政策金融公庫)へ入庫。10年の在籍で融資、審査、事業再生、債権管理など中小企業金融に関する幅広い業務を経験。その後、(財)日本生産性本部を経て、元上司の支店長とともに中小企業向けのコンサルティング会社を設立。(有)竹橋経営コンサルティング取締役社長。“重視するのは拡大より継続”を理念とし、B/S改善・AI資金シミュレーション「ICAROS‐V」を活用したコンサルティングを中小企業向けに展開して10年の実績を持つ。人工知能を搭載したICAROS‐Vによる「借入金の削減」や「リスケジュールの解消」は金融機関からも定評がある。

著者紹介

連載決算書だけでは分からない⁉ 会社の現状を把握する「資金繰り分析」講座

 

 

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