「代償財産」は遺産分割の対象になるか?

今回は、「代償財産」は遺産分割の対象になるかを探ります。※本連載は、一般社団法人日本財産管理協会による編著、『遺産承継の実務と書式』(民事法研究会)の中から一部を抜粋し、相続開始から遺産分割までの「遺産変動」に関する基礎知識を紹介します。

相続人の合意があれば、遺産分割の対象にできる

⑴ 代償財産とは

 

相続開始時に存在した相続財産が、遺産分割をする時には存在しないことがあることはすでに述べたとおりである。具体的には、建物が火災により焼失したり、地震により倒壊したり、不動産や株式等の有価証券等を遺産分割前に相続人が売却処分した場合などである。また、相続人の一部が遺産分割前の建物を取り壊したり、高価な動産類を破棄してしまうようなこともあるかもしれない。

 

前述のとおり、実務では、遺産分割の対象財産を定める基準時を遺産分割の時とする遺産分割時説がとられていることから、このように、遺産分割までの間に滅失・逸失した財産は、原則として、遺産分割の対象からは除外されることになる。

 

しかし、滅失・逸失した相続財産は、相続開始時に存在していた形態では遺産分割時に存在していないが、たとえば、先の例でいえば、火災により焼失したり、地震により倒壊した建物の場合には保険金として、売却した不動産等の場合には売却代金として、取り壊したり破棄した建物・動産の場合には損害賠償金として、それぞれ、その存在形態を転化させて、いわゆる代償財産として存在していることがありうるわけである。

 

⑵ 代償財産は遺産分割の対象となるか

 

代償財産は、本来であれば相続財産として遺産分割の対象となるべきであった財産の価値を引き継いだものとみることができるため、遺産分割の対象としたほうが、相続人の意思にも合致するように思われる。

 

この点、最判昭和52・9・19家月30巻2号110頁は、「共同相続人が全員の合意によって遺産分割前に遺産を構成する特定不動産を第三者に売却したときは、その不動産は遺産分割の対象から逸出し、各相続人は、第三者に対し各持分に応じた代金債権を取得し、これを個々に請求することができるものと解すべき」とし、また、最判昭和54・2・22家月32巻1号149頁は、「共有持分権を有する共同相続人全員によって他に売却された右各土地は遺産分割の対象たる相続財産から逸出するとともに、その売却代金は、これを一括して共同相続人の一人に保管させて遺産分割の対象に含める合意をするなどの特別の事情のない限り、相続財産には加えられず、共同相続人が各持分に応じて個々にこれを分割すべきものである」として、遺産分割の対象財産の確定時期につき遺産分割時説に立ちながら、代償財産たる売却代金は、原則として、相続財産にあたらず、遺産分割の対象とはならないとしながらも、共同相続人により遺産分割の対象とする合意があるなどの特別の事情がある場合には、遺産分割の対象とすることができるものとしており、通説は、代償財産は合意により遺産分割の対象とすることができるとされている。

 

一方、参考までに、代償財産について遺産分割の対象性を認めた裁判例として、①東京高決昭和39・10・21家月17巻3 号43頁(「相続財産につき相続人のうちのある者が遺産分割前に勝手にこれを処分したときは、その財産に代わり同人に対する代償請求権が相続財産に属することとなり、これが分割の対象となると解するのが相当である」)、②佐賀家審昭和40・9・3 家月18巻2号98頁(「遺産たる土地と家屋のうち、土地が県の用地買収の対象となった場合には、遺産として相続の対象となるものは、右家屋と土地買収代金とであり、家屋等移転補償費は、本件遺産分割により当該家屋を取得した相続人の所有となる」)などがあるので紹介しておく。

遺産分割の対象とするなら、遺産分割協議書に明記を

⑶ 実務対応のポイントと遺産分割協議

 

この点、実務上の対応は、相続財産のうち滅失・逸失したものがある場合は相続財産から除かれ、その代償財産も相続財産にはあたらず遺産分割の対象にならないのが判例に沿った原則的な考え方であることを理解しながらも、相続人の希望やケースによって、代償財産を遺産分割の対象とする場合もあるであろうから、このような場合は、遺産分割協議書に記載をするべきであろう(現実的には、株式等の有価証券類や不動産の売却、預貯金の払戻し等を相続人全員の委任を受けて相続人代表者が遺産分割前に行い、その売却代金や払戻金等を遺産分割の対象とすることは非常に多いといえる)。

 

遺産分割の対象としない場合には、売却代金のような可分債権については、判例の考え方に沿えば、各共同相続人が法定相続分に応じて固有の権利として各別に取得するわけであるが(代償財産が可分債権でない場合は、法定相続分に応じた相続人固有の共有財産となると解される)、後日の紛争の予防の観点からは、確認的に、法定相続分に応じて取得した旨を遺産分割協議書に「相続人の全員は、被相続人名義の次の遺産の売却代金○円(売却手数料、源泉徴収税額控除後の額)を遺産分割の対象とすることに合意し、これを相続人○○○○および同○○○○が各2 分の1 の割合により取得する。株式(銘柄○○)100株(○○証券○○支店預り)」などと明記しておくことが望ましいと考える。

司法書士・行政書士・社労士 いがり綜合事務所 代表

〔略歴〕
平成20年司法書士登録(神奈川県司法書士会)、神奈川青年司法書士協議会副会長、同事務局長、一般社団法人日本財産管理協会理事、神奈川県司法書士会川崎支部支部長(現職)ほか

〔著書等〕
『財産管理契約締結における実務の流れと留意点』市民と法96号36頁、『規則31条の従来業務への活用』市民と法88号116頁、『任意相続財産管理業務及び遺言執行の実務』(共著)登記情報616号21頁ほか

著者紹介

司法書士・行政書士石橋事務所 代表

平成19年司法書士登録(神奈川県司法書士会)、神奈川青年司法書士協議会副会長、一般社団法人日本財産管理協会理事(現職)、公益社団法人成年後見センター・リーガルサポート神奈川県支部副支部長(現職)ほか

〔著書等〕
『任意相続財産管理業務及び遺言執行の実務』(共著)登記情報616号21頁、『多重債務問題の根本的な解決に向けて』月報司法書士469号21頁ほか

著者紹介

鎌倉司法事務所 代表

平成8年より各種金融機関にて勤務の後、平成25年司法書士登録(神奈川県司法書士会)、神奈川県司法書士会財産管理業務推進委員会委員(現職)、一般社団法人日本財産管理協会理事(現職)ほか

著者紹介

こうなん司法書士事務所 代表

平成17年司法書士登録(神奈川県司法書士会)、神奈川青年司法書士協議会事務局長、神奈川県司法書士会理事、一般社団法人神奈川県公共嘱託登記司法書士協会理事、公益社団法人成年後見センター・リーガルサポート神奈川県支部副支部長、一般社団法人日本財産管理協会理事(現職)ほか

著者紹介

JBA司法書士法人 代表社員

平成19年司法書士登録(神奈川県司法書士会)、神奈川青年司法書士協議会会長、神奈川県司法書士会理事(現職)、一般社団法人日本財産管理協会理事(現職)ほか

〔著書等〕
「民法附則(昭和22年法律第222号)の留意点」登記情報659号75頁、「家督相続と遺産相続⑴⑵」登記情報656号57頁・657号89頁、「旧法相続の今日的意義」(座談会)登記情報650号10頁、「債務整理業務から考える財産管理業務」市民と法95号106頁ほか

著者紹介

連載相続開始から遺産分割までの「遺産変動」に関する基礎知識

 

遺産承継の実務と書式

遺産承継の実務と書式

猪狩 佳亮,石橋 孝之,金山 東完,藤井 里絵,古谷 理博

民事法研究会

委任契約に基づく遺産承継の実務指針を示すとともに、受任、相続人・相続財産の調査、遺産分割協議、遺産承継手続、終了報告までを具体的・実践的に解説!

 

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