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相続時に問題となる「遺産の管理費用」…誰が負担すべき?

今回は、「遺産の管理費用」は誰が負担すべきなのかを探ります。※本連載は、一般社団法人日本財産管理協会による編著、『遺産承継の実務と書式』(民事法研究会)の中から一部を抜粋し、相続開始から遺産分割までの「遺産変動」に関する基礎知識を紹介します。

共有者が「持分」に応じて支払うのが基本

⑴ 遺産の管理費用とは

 

遺産の管理費用とは、相続開始後、遺産分割までの間に要した相続財産の管理費用であり、具体的には、固定資産税等の公租公課、家屋等の修理費・改築費、火災保険料、上下水道料金、電気料金、地代・家賃などがあげられる。

 

相続財産について遺産分割協議が成立した後は、当該財産は、これを取得した相続人の固有の財産となるのであるから、当該財産の管理費用は、当該財産を取得した相続人が自ら負担するのは当然のことである。

 

問題は、相続開始から遺産分割までの間に発生した遺産の管理費用を誰が負担するのかということである。

 

民法885条1項は、相続人の過失によるものでない限り、相続財産に関する費用は、その財産の中から支弁するものと規定している。したがって、たとえば、遺産の管理費用に該当するもの(たとえば相続財産である建物の電気料金等)が、相続開始後に相続財産である預貯金から自動引落しがなされている場合や、相続人全員の合意の下に相続財産である現金や預貯金から支払われたような場合は、特段の問題は生じないといえる。

 

しかし、相続財産に現金や預貯金などが十分になかったり、相続人間で相続財産である現金や預貯金から支出することの合意が得られない場合などは、とりあえずは相続人の一部の者が立て替えて支払わざるを得ない場合も多く、この場合、立て替えた遺産の管理費用をどのように清算すべきかが問題となる。

 

この点、相続開始から遺産分割までの間の相続財産は、共同相続人の共有になるところ(民法898条)、相続財産の共有は、民法249条以下に規定する「共有」とその性質を異にするものではないとされており(最判昭和30・5・31民集9巻6号793頁)、民法253条1項では、各共有者は、その持分に応じ、管理の費用を支払うものとされている。

 

したがって、遺産の管理費用を相続財産から支弁しない場合には、共同相続人がその相続分(同法899条)に応じて支払うこととなり、相続人の一部の者が立て替えて遺産の管理費用を支払った場合は、他の共同相続人に対して、その相続分に応じた費用の償還を求めることになるものと解される。

 

ただし、たとえば、相続財産である不動産を相続人の一人が占有使用しているような場合は、民法595条1 項などを根拠として、当該相続財産に係る管理費用は、当該相続人の単独負担とするべきとの見解もある。

遺産分割の対象となるか否かは「三つの説」に分かれる

⑵ 遺産の管理費用は遺産分割の対象となるか

 

ところで、遺産の管理費用を、そのつど、共同相続人の全員から集めて支払ったり、立て替えてから清算をしたりするのは、管理費用がわずかであれば問題ないかもしれないが、その数や額が多くなってくると、煩雑にすぎ、支払わない者が出てくるなどしかねず、場合によっては、民事訴訟手続により回収をせざるを得なくなる。

 

そこで、遺産の管理費用を、遺産分割の対象として、遺産分割により一回で清算できないかと考えることになる。つまり、相続人の一部の者が立て替えた遺産管理費用や未払いとなっている遺産の管理費用の清算方法を遺産分割の内容とすることはできないかという問題である。

 

遺産の管理費用が、遺産分割の対象となるかは、次の①~③の三つの説に分かれている。

 

① 積極説  遺産の管理費用は、相続財産に関する費用にあたるので、相続財産の負担として、遺産分割に際して、遺産から清算されるべきであるとする説である(大阪高決昭和41・7・1 家月19巻2 号71頁、東京高決昭和54・6・6 家月32巻3 号101頁など)。

 

② 消極説  遺産の管理費用は、相続開始後に発生する債務であるので、相続財産とはいえず、遺産分割の対象とはならないとする説である(札幌高決昭和39・11・21家月17巻2 号38頁、福岡高決昭和40・11・8 家月18巻4 号74頁、東京高決昭和42・1・11家月19巻6 号55頁、大阪高決昭和58・6・20判タ506号186頁など)。

 

③ 折衷説  消極説と同様、遺産の管理費用は相続財産ではないので、原則として遺産分割の対象ではないが、遺産分割の当事者が遺産の管理費用を遺産分割の対象とすることに合意した場合は、遺産分割の対象となるとする説である(広島高松江支決平成3・8・28家月44巻7号58頁など)。

相続人全員の合意があれば、遺産分割の対象にできる

(3)実務対応のポイントと遺産分割協議

 

このように、遺産の管理費用が遺産分割の対象となるかについては争いがあるが、実務上は折衷説がとられており、相続人全員の合意があれば、遺産分割の対象とすることができるとされている。ただし、折衷説によっても、相続人間での合意が得られない場合は、遺産分割手続外で、当事者間で清算をすべきこととなり、合意ができない場合は、民事訴訟手続によらざるを得ない。

 

実務上は、遺産の管理費用の負担について、遺産分割協議書に記載することにより一回で解決するのであれば、後日の紛争の予防の観点からも、記載しておくべきであろう。

 

たとえば、相続財産のうち甲建物を取得することとなった相続人Aがいるとして、その必要な修理費を他の相続人Bが立て替えて支払っていたような場合は、相続人間の意思としても、修理費は相続人Aが負担するのが公平だと考える場合が多いと思われる。

 

このような場合に、相続人間で争いがないのであれば、遺産分割協議書に、相続人Aが甲建物を取得する旨とあわせて、修理費を負担することとして相続人Bに支払う旨も記載をしたり、相続人Bが預貯金等の遺産から修理費の支払いを先立って受ける旨を記載するのが望ましいといえる。

司法書士・行政書士・社労士 いがり綜合事務所 代表

〔略歴〕
平成20年司法書士登録(神奈川県司法書士会)、神奈川青年司法書士協議会副会長、同事務局長、一般社団法人日本財産管理協会理事、神奈川県司法書士会川崎支部支部長(現職)ほか

〔著書等〕
「財産管理契約締結における実務の流れと留意点」市民と法96号36頁、「規則31条の従来業務への活用」市民と法88号116頁、「任意相続財産管理業務及び遺言執行の実務」(共著)登記情報616号21頁ほか

著者紹介

司法書士・行政書士石橋事務所 代表

〔略歴〕
平成19年司法書士登録(神奈川県司法書士会)、神奈川青年司法書士協議会副会長、一般社団法人日本財産管理協会理事(現職)、公益社団法人成年後見センター・リーガルサポート神奈川県支部副支部長(現職)ほか

〔著書等〕
「任意相続財産管理業務及び遺言執行の実務」(共著)登記情報616号21頁、「多重債務問題の根本的な解決に向けて」月報司法書士469号21頁ほか

著者紹介

鎌倉司法事務所 代表

〔略歴〕
平成8年より各種金融機関にて勤務の後、平成25年司法書士登録(神奈川県司法書士会)、神奈川県司法書士会財産管理業務推進委員会委員(現職)、一般社団法人日本財産管理協会理事(現職)ほか

著者紹介

こうなん司法書士事務所 代表

〔略歴〕
平成17年司法書士登録(神奈川県司法書士会)、神奈川青年司法書士協議会事務局長、神奈川県司法書士会理事、一般社団法人神奈川県公共嘱託登記司法書士協会理事、公益社団法人成年後見センター・リーガルサポート神奈川県支部副支部長、一般社団法人日本財産管理協会理事(現職)ほか

著者紹介

JBA司法書士法人 代表社員

〔略歴〕
平成19年司法書士登録(神奈川県司法書士会)、神奈川青年司法書士協議会会長、神奈川県司法書士会理事(現職)、一般社団法人日本財産管理協会理事(現職)ほか

〔著書等〕
「民法附則(昭和22年法律第222号)の留意点」登記情報659号75頁、「家督相続と遺産相続⑴⑵」登記情報656号57頁・657号89頁、「旧法相続の今日的意義」(座談会)登記情報650号10頁、「債務整理業務から考える財産管理業務」市民と法95号106頁ほか

著者紹介

連載相続開始から遺産分割までの「遺産変動」に関する基礎知識

 

遺産承継の実務と書式

遺産承継の実務と書式

猪狩 佳亮,石橋 孝之,金山 東完,藤井 里絵,古谷 理博

民事法研究会

委任契約に基づく遺産承継の実務指針を示すとともに、受任、相続人・相続財産の調査、遺産分割協議、遺産承継手続、終了報告までを具体的・実践的に解説!

 

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