「果実」は遺産分割の対象か、共有分割の問題か?
⑴ 遺産から生ずる果実・収益とは
相続開始時に存在した相続財産から、相続開始後に果実(収益)が生ずる場合がある(民法88条)。具体的には、果樹園から採取される果物、乳牛から採取される牛乳などの天然果実、賃貸不動産から生ずる家賃収入・地代収入、貸金から生ずる利息収入などの法定果実がある。
これらの遺産(元物)から相続開始後に発生した果実は、どのように取り扱うべきであろうか。
つまり、これらの果実も遺産として取り扱い、遺産分割の対象とするべきか、遺産としては取り扱わずに、遺産分割の対象からは除外して、共有物分割(民法256条以下)の問題など別の問題として取り扱うべきか、という問題である。
一方、遺産分割の効力は相続開始時にさかのぼる(民法909条)とされているから、元物たる遺産を遺産分割により取得した相続人は、相続開始時より当該遺産を承継していたことになり、そうであるならば、相続開始後に生じた当該遺産に係る果実についても、当該相続人が取得するのが相当であろうと考えることもできる。
共同相続人間で相続分に応じて清算すべきもの
⑵ 遺産から生ずる果実・収益は遺産分割の対象となるか
この問題につき、最判平成17・9・8 民集59巻7 号1931頁は、賃貸不動産から生じた賃料債権の例で、「遺産は、相続人が数人あるときは、相続開始から遺産分割までの間、共同相続人の共有に属するものであるから、この間に遺産である賃貸不動産を使用管理した結果生ずる金銭債権たる賃料債権は、遺産とは別個の財産というべきであって、各共同相続人がその相続分に応じて分割単独債権として確定的に取得するものと解するのが相当である。遺産分割は、相続開始の時にさかのぼってその効力を生ずるものであるが、各共同相続人がその相続分に応じて分割単独債権として確定的に取得した上記賃料債権の帰属は、後にされた遺産分割の影響を受けないものというべきである」。
「したがって、相続開始から本件遺産分割決定が確定するまでの間に本件各不動産から生じた賃料債権は、被上告人及び上告人らがその相続分に応じて分割単独債権として取得したものであり、本件口座の残金は、これを前提として清算されるべきである」と判示している。
つまり、相続開始後、遺産分割までの間に発生した賃料収入(果実)は、①遺産ではなく、②共同相続人が相続分に応じて分割単独債権として確定的に取得して、③後に(元物について)遺産分割が成立しても影響を受けるものではないとされているのである。
判例にならえば、相続開始後、遺産分割までの間に発生した果実は、そもそも遺産ではなく、遺産分割の対象でもないので、すでに発生した果実については、共同相続人間で相続分に応じて清算をすべきものであって、もし争いがあれば、最終的には民事訴訟手続によって解決すべきものとなる。
だが、元物たる遺産については遺産分割手続により清算し、そこから生ずる果実については民事訴訟手続により清算するというのは、一般的には、煩雑にすぎるといわざるを得ない。相続人の立場からも、元物も果実も、遺産分割手続の中で、一回で解決できたほうが合理的といえる。
この点、実務では、相続開始後に生じた果実は、遺産ではなく、当然に遺産分割の対象になるものではないとしつつも、相続人全員が遺産分割の対象に含めることに合意した場合には遺産分割の対象となるとの取扱いもなされている。
裁判例も、「相続開始後遺産分割までの間に相続財産から生ずる家賃は、相続財産そのものではなく、相続財産から生ずる法定果実であり、・・・相続財産とは別個の共有財産であり、その分割ないし清算は、原則的には民事訴訟手続によるべきものである。但し、相続財産から生ずる家賃が相続財産についての持分と同率の持分による共有財産であり、遺産分割手続において相続財産と同時に分割することによつて、別途民事訴訟手続によるまでもなく簡便に権利の実現が得られるなどの合理性があることを考慮すると、相続財産と一括して分割の対象とする限り、例外的に遺産分割の対象とすることも許容されるものと解すべきである。この場合、当事者の訴権を保障する観点から、相続開始後遺産分割までの間の家賃を遺産分割の対象とするには、当事者間にその旨の合意が存在することが必要であると解するのが相当である」(東京高決昭和63・1・14家月40巻5号142頁)としている。
(3)実務対応のポイントと遺産分割協議
遺産承継業務を遂行するにあたり、果実の発生として一般的に多くみられるのは、株式等有価証券類の配当金、賃貸不動産の賃料収入等である。これらは、通常は預貯金の通帳等の取引明細、証券会社の取引残高明細書等から明らかになる場合が多い。
これらの果実について、依頼者に「遺産分割の対象とせずに、共同相続人が各自の相続分に応じて分割清算をするのが原則である。共同相続人の合意によって遺産分割の対象とすることもできるが、その場合は、申し出ていただきたい」と選択を委ねるのは、あまり現実的とはいえない。
事案にもよるが、むしろ、相続人が、遺産分割の対象としない意思であることが明らかでない限りは、(最終的に相続人全員の合意を確認はするにしても)遺産分割の対象とする方向で進めるのが、現実的であるといえる。
なぜなら、共同相続人間で、相続分とは異なる割合での取得を希望する場合は、当然に遺産分割の対象とせざるを得ないし、たとえ相続分どおりに分割するのであっても、判例上、確定的に分割取得するのだからと何らの書面等も残さないで分割するよりは、遺産分割協議書に、その旨を確認的に明示しておいたほうが、後日の無用なトラブルを防ぐことに資すると考えられるからである。
たとえば、遺産分割協議書において、「次の株式(配当金を含む。)は、相続人○○○○が取得する。○○証券○○支店(口座番号○○○○)における○○会社の株式 相続開始時の残高 ○株」などと明記しておくことが考えられる(この例では、果実である株式の配当も遺産分割の対象としたことを明示するため、かっこ書により配当金を含むことを記載した。実際には、この記載がなくても手続上問題がない場合が多いであろうが、法的に明確にするために記載するのが望ましい)。