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著名なビジネス法則に当てはめて検証…「M&A成功」の秘訣

前回は、中小企業の多角化戦略としての「M&A」の活用術を解説しました。今回は、M&Aの現場によくある事例を「ビジネス法則」に当てはめながら検証します。

「選択肢が増えると意思決定が遅れる」(ヒックの法則)

前回、M&Aを活用した多角化戦略を古典的なビジネス法則になぞらえて説明したところ、いつもは辛口の同業者から、とてもわかりやすかったとコメントをもらいました。

 

よく考えれば、M&Aも商取引の一形態であり、何かしら法則が発生するのは当然のことです。法則を知ることで成功への近道を歩き、失敗を回避することも可能となるはずです。今回は、M&Aの現場によくある事例を「ビジネス法則」に当てはめながら検証してみます。

 

◆M&Aの進捗管理は常に遅延する(ホフスタッターの法則)

 

システム開発の現場でよく語られる法則ですが、M&A業界でも同様です。M&Aはアドバイザーに加え、税理士・弁護士など第三者が関与してきます。それぞれのスピード感、優先順位が違うため、期日設定をきっちりとしないと遅れるのは必至です。

 

また、予想外のことが頻繁に起こるのがM&Aです。たとえば、利害関係者からの妨害、簿外債務や訴訟などのマイナス情報が突然でてくることもあります。

 

クロージング時期を設定したら、きちんと進捗管理をすることも大事ですが、多少の不確定要素を許容しながら前に進めてしまう鈍感力も時には必要です。プロジェクトは遅延するものと認識し、重要度と緊急度を把握しながら進めていく姿勢がM&Aの現場には必要かもしれません。

 

◆選択肢が増えると意思決定が遅れる(ヒックの法則)

 

一説によると、人間は一日平均9,000回もの意思決定を行っているそうです。起きる、二度寝する、トイレに行く、食事を取る、食事を残すなどの行動は、日常における意思決定によるものです。

 

M&Aにおいては、日常あまり使わない脳の領域で思考するため、意思決定がどうしても遅れがちです。出資比率はいくらにするか、先方の社長の待遇はどうするか、誰を責任者にするか、譲渡価格をいくらにするか、どのタイミングで銀行や従業員に話をするか・・・など、重要な選択を迫られる場面が、短い間に次々と訪れます。

 

選択肢が多すぎると意思決定が遅れるどころか、できないこともあります。そのような時は、現実的な選択肢を3つほど取り上げると、合理的な判断がしやすくなります。悩んだら、選択肢を絞って考えてみましょう。

 

◆1人を敵に回すと250人が敵にまわる(ジラートの法則)

 

どんな人でも平均250人の仲間、知人がいるという統計に基づいた法則です。実は、M&A業界でも評判が良くない買い手・投資家というのが存在します。買い手を選ぶときには、候補者リストを作成し、風評などを探ります。

 

会社の業績は立派でも、最終契約合意で値切られた、突然理由なくはしごを外された、取引先を遠慮なく切った・・・などのネガティブな風評がでてくることがあります。当然ながら、そのような買い手はリストから外します。人は傲慢になりがちな生き物です。業績が良くちやほやされると、ついつい強者の理論で強引な取引に出てしまうことも見受けられます。長期的に見た場合、それがマイナスとなることを肝に命じたいものです。

「意識することで情報は集まってくる」(カラーバス効果)

◆M&Aでシンプルに考える技術(メイヤーの法則)

 

いつも物事を複雑に考え、余計な仕事をしている人がいます。一方、複雑なことも単純化して、すっきりとわかりやすく説明する方もいます。単純化するには、物事の本質を理解する能力が必要です。

 

M&Aは、事業、財務、法務、人事など短期間で分析して、第三者に伝える力が求められます。そして、影響度が高く重要なことをシンプルにまとめる能力も、実務上重要です。どうでも良いことをネチネチと複雑に考え、迷路に入り込んでいる方を見ると、ゴールが非常に遠く感じてしまいます。複雑化しているものをそぎ落とし、本質的な強みや課題を見抜く力がM&Aの現場では求められるのです。

 

◆意識することで情報は集まってくる(カラーバス効果)

 

「赤」という色を意識して街に出ると、赤い車や服が目の中に飛び込んできます。意識していることほど、それにまつわる情報が集まってくるという法則です。

 

この法則は、M&Aの買い手やアドバイザーにとって、とても重要です。筆者も現在、建設業界、IT業界、寺院のM&Aに注力していますが、それらに関係する情報などは意識せずとも集まってきます。おそらく、これまでと情報量は変わらなくても、アンテナの感度が高まっているため、気づくことが増えてきたのだと思います。

 

筆者が買い手やアドバイザーに、業界特化やエリアを絞り込むことをすすめるのは、「カラーバス効果」により情報が集まることを実感として知っているからです。

 

◆M&Aも時には損切りが大事(サンクコスト効果)

 

M&Aに限らず、投資に失敗はつきものです。それをわかっていながらも、現在に至るまでの投資額が大きいと損を確定させるのが怖くなり、ストップできなくなる状態のことです。今から40年以上も前に開発され、脚光を浴びた超音速旅客機コンコルドが、商業的には大失敗とわかりながらも巨額の投資を続けたことから、別名「コンコルド効果」とも呼ばれています。

 

人間は損をすることが怖く、回避する生き物と言われていますが、ある瞬間から損失に対して鈍感になってしまうことも指摘されています。最初はプライドを守るために追加投資していたものの、破滅への道を進んでしまった事例を何度か見ています。M&Aに限らず、投資は損切り、撤退のルールを決めておく必要があります。

 

とはいえ、この法則を全て肯定するわけではありません。2003年に最後のフライトを終えた「コンコルド」ですが、復活の兆しがあります。2017年、日本航空(JAL)は米国の超音速旅客機開発のベンチャー企業に出資を行い、20機分の優先発注権を獲得しました。現在の旅客機と比べ、2倍以上もの速度で運航可能とのことです。筆者が小学生の頃、誕生日プレゼントにコンコルドの模型を買ってもらったことがあります。いつかコンコルドに乗るのが夢でしたが、その夢が叶う日が訪れるかもしれません。一概に損得で割り切れないところが、ビジネス、M&Aの面白く奥深いところです。

 

 

齋藤 由紀夫

株式会社つながりバンク 代表取締役社長

株式会社つながりバンク 代表取締役社長 

オリックス株式会社1996年~2012年。16年在籍。 在職中に多くの新規Projectに参画し、東京都、銀行、カード会社などに出向。ベンチャー企業から上場企業まで投融資を実行。経営企画部時代(約8年在籍)に、出資先の株主間調整、合弁契約解消、事業撤退・売却、海外子会社統合、債権回収業務など前向きから後ろ向き案件の対応をこなす。2012年、株式会社つながりバンク設立。スモールM&A市場の普及・拡大をメイン事業とし現在に至る。自らも小規模の事業系投資を実践中。

著者紹介

連載新たな投資分野として注目集める「スモールM&A」の活用術

 

 

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