これからのM&Aビジネスで「オタク」が重宝される理由

前回は、士業従事者の参入が「M&A業界」に与える影響について取り上げました。今回は、スモールM&Aを成功に導く「オタク」活用術について見ていきます。

特定の業界に愛情と知見ある専門家=「オタク」!?

スモールM&Aの対象となる案件発掘や事業評価では、特定の業界に愛情と知見ある専門家、つまり「オタク」の方々に大変お世話になっています。ユーザー目線で鋭い指摘や意見をいただける、投資家・アドバイザーにとってかけがえのない存在です。

 

◆ニッチな出版業界の事例

 

筆者は現在、ある大手企業から対象企業のロングリスト作成・絞り込み・アプローチ・各種交渉を依頼され、趣味・嗜好性が高い出版社のM&Aに取り組んでいます。

 

しかし困ったことに、筆者が普段連携している調査機関・金融機関・コンサルタントのルートではまったく情報がつかめません。途方に暮れていたのですが、前職の同僚が大学時代から30年近くこの分野に傾倒しているマニアであったことを思い出しました。連絡を取ってみたところ、二つ返事で協力を得ました。

 

早速クライアントに説明し、最強のオタクM&Aチームを結成。対象企業を絞り込み、一般人では分からない業界裏事情、トレンド、隠れた強みなどを教えてもらっています。5社に絞り、それぞれの人脈を活用しながらアプローチを開始しているところです。

 

◆IT業界での事例 

 

IT業界は、技術・人材獲得が目的で頻繁にM&Aが行われています。筆者もそれなりの数をこなしていますが、技術トレンド・業界勢力が目まぐるしく変化し、アップデートするのがやっとです。クラウドサービスも、アマゾンウェブサービスやMicrosoft Azure(マイクロソフト・アジュール)が席巻しています。さらに、IoT・AI・ビッグデータなどの新技術開発は加速化し、求められるスキルも変わってきています。よって、この分野に関しては独自判断することを止め、IT系のオタクに相談することにしています。

 

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先日、とある企業から、特定の技術を持つIT企業との資本業務提携の相談がありました。しかし、どのようなベンチャーがイケているのか皆目見当がつきません。色々と考え、その分野を中心に投資をしている知人に尋ねたところ、即座に聞いたことのない企業の名前が10社以上あがりました。投資家目線で、どの技術が主流か、どの経営者が優れているのかを、相当の時間とコストをかけてウォッチしていました。もちろん、この投資家の見解がすべて正しいとは限りませんが、少なくとも筆者とは情報量が格段に違い、ビジネスとしての協力を求めました。

 

◆「仕組みづくり」オタクの事例

 

音楽教育分野において、この10~20年の間で圧倒的なポジションを築いた団体があり、そのビジネスモデルを構築した方と定期的にお会いしています。隣接業界や異業種の研究にも積極的で、深い洞察力で先を見据えたビジネス展開に常々刺激を受けていますが、何よりすごいのはデータベースマーケティングとその活用方法です。

 

しかし、この方はもともと音楽業界関係者ではなく、決して音楽そのものやアーティストに詳しいわけではありません。その方は「仕組みづくり」のマニアでありオタクなのだ、とあるとき気がつきました。音楽業界の非効率さや古い常識を打ち破るために、どのような仕組みを導入すれば解決できるかを24時間365日考え、実行しているのです。筆者も、仕組みづくりの重要性やそのビジネスモデルを、M&Aの事業価値評価・業務改善のヒントとさせていただいています。

 

◆お寺の事例 

 

現在、寺院を中心に事業承継やM&Aを推進していますが、宗派ごとに独自のルールが存在したり、檀家との関係が複雑であったりと、一筋縄ではいきません。また、業界関係者にクセが強い方が多いため、距離感が難しく苦労しているのが実情です。譲渡直前で、突然ややこしい方が入ってきて話が流れたことは、一度や二度ではありません。

 

しかし、ただ待つだけではよい話は入ってきません。現在は、宿坊オタク、断食道場オタク、寺社婚オタク、墓石研究家といった、この分野の専門家かつ人格的にも優れている方と接点を持たせてもらっています。オタクから見るお寺の業界は、それぞれ違った風景が見えてとても参考になっています。

 

◆ビジネスの事業評価の事例

 

スモールM&Aの対象事業が多岐にわたるなか、もっとも重要でスキルアップも難しいのが、ビジネス面の事業性評価です。財務や法務は、業界が違ってもある程度応用がききますが、ビジネス面の分析・評価は、強みは何か、差別化要因は何か、永続性はあるかなどを考えなければならず、一朝一夕に身につけられるスキルではありません。

 

その際に頼れるのが、オタク、マニア、専門家の方々です。特にユーザーという立場で事業を見る視点は驚くほど鋭く、自身の分析の甘さやピントがずれていたことを反省させられます。

良質な情報取得に不可欠な「専門特化」

筆者は、投資家・アドバイザー候補の方に、まずは特定業界を絞って研究すべきと常々すすめています。投資対象が「事業」であるなら、興味を持って深堀りしないことには適切な判断はできません。また専門特化することによって、ある時を境に良質な情報が一気に流れてきます。

 

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これはM&Aに限らず、ビジネス全般に通じることかもしれません。これまでの大企業主導型の経済では、ゼネラリストが求められてきました。しかし、これからは専門家、オタクがビジネスの現場で活躍する機会が増えてくると感じています。特にスモールM&Aにおいては、その傾向が顕著です。

 

 

齋藤 由紀夫

株式会社つながりバンク 代表取締役社長

 

株式会社つながりバンク 代表取締役社長 

オリックス株式会社1996年~2012年。16年在籍。 在職中に多くの新規Projectに参画し、東京都、銀行、カード会社などに出向。ベンチャー企業から上場企業まで投融資を実行。経営企画部時代(約8年在籍)に、出資先の株主間調整、合弁契約解消、事業撤退・売却、海外子会社統合、債権回収業務など前向きから後ろ向き案件の対応をこなす。2012年、株式会社つながりバンク設立。スモールM&A市場の普及・拡大をメイン事業とし現在に至る。自らも小規模の事業系投資を実践中。

著者紹介

連載新たな投資分野として注目集める「スモールM&A」の活用術

 

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