相続放棄の申告は3カ月の間にする必要があるが・・・
<事例8>
A社の創業者であるBさんが死亡しました。Bさんの生前からA社は経営難に陥っており、来週末に期日となっている支払手形を支払う資金のめどがつかず、不渡りは避けられない状況でした。
地元信用金庫等からのA社が借り入れた金額は全部で1億5000万円に達しており、Bさんの残したA社の工場土地も担保に入っていました。A社の工場土地の銀行の評価額はせいぜい1億円程度です。このままでは、追加融資は受けられない状況であり、支払手形が不渡りとなれば、A社の倒産は避けられなかったでしょう。
また、被相続人であるBさんは、A社の債務1億5000万円の連帯保証人でもありました。そのため、相続人は、被相続人の負っていたこの保証債務も相続しなければなりませんでした。
しかし、相続人にはそれを弁済するだけの資力がありませんでした。つまり、A社が破綻すれば、必然的に相続人も破産を余儀なくされるという状況だったのです。ちなみに、相談のあった時点で、相続放棄の申告期間である3カ月間はとうに過ぎていました。そのため、相続人が相続放棄をして、保証債務を免れることは、もはや不可能になっていたのです。
なぜ、みすみす相続放棄の期間を徒過したのかと言えば、経営状況が悪化していたとはいえ、A社が基本的には会社として回っていた、つまりは業務が滞りなく行われていたためでした。事態は少しずつ深刻化していき、相続人が破綻寸前であることに気づいたときには、もはや相続放棄をできなくなっていたというわけです。
専門家の力を借りることで債務を負わずに済むケースも
筆者が相談を受けたとき、A社の手形は1週間後には不渡りになろうとしていました。破綻までのタイムリミットが刻一刻と迫っていたことから迅速に行動を起こし、まず、手形の受取人だった会社の仕入れ先に協力を求め、手形をジャンプするとともに、メインバンクに支払いをストップすることを了承してもらいました。
また、同時に工場土地の売却の査定を進め、大手不動産会社から2億円の査定評価を得ました。そして、その査定を出した不動産会社系列のノンバンクから土地を担保に3000万円の融資を受けて、土地の売却と決済が行われるまでの当座の資金に充てたのです。
最終的に、工場土地についても複数の不動産業者に依頼して入札にかけ、2億5000万円で落札されました。その落札代金でA社の債務を完済しただけでなく、数千万円の余剰金が生じたことから、それを相続人に分配することまでできたのです。
このケースのように、被相続人が会社の経営者であり、会社の債務について個人的に保証していたような場合には、気づいたら相続放棄の期間が過ぎており、相続人が巨額の債務を負わなければならない状況に陥っていたという事態が起こりえます。
そのようなトラブルを避けるためには、相続が発生したときに、会社の経営状況や被相続人による会社債務の保証の有無等を迅速に把握して、相続放棄の必要性を早急に検討する必要があるでしょう。
また、万が一、相続放棄の期間を過ぎてしまったような場合でも、弁護士などの専門家の力を借りることによって、適切に会社の財産を処分したり、債権者と交渉を行うことによって、相続人が会社の債務を負うことを免れられるケースがあります。
「もはや、相続放棄はできない。こんな莫大な債務を負わなければならないなんて、もう破産するしかない・・・」などと絶望する前に、できることはまだ残されているのです。