日本の再生可能エネルギー買取価格は、欧州の約2倍
前回の続きである。
最後に、③に関しては、FITがスタートした頃から、日本の再生可能エネルギー電気の買取価格は、太陽光や風力を含めて全般に高く、欧州の約2倍だといわれてきた。
バイオマスでも事情は変わらない。ドイツの報償額(連載第5回参照)と日本の買取価格(連載第7回参照)を比べれば明らかである。
とはいえ2009年の時点では、ドイツでも基本レートにボーナスを加えた報償額は小規模層で、2014年の倍くらいになっていた。その後、すべてのボーナスが廃止されて日本との差が開く。
もともとドイツは欧州の基準で考えると、報償額を高めに設定していた。多くの発電事業者をFITに誘い込み、彼らの競争を通して発電コストの低下を狙ったのである。
だが、実際にやってみると、発電技術によって大差が出てきた。風力と太陽光の発電コストは期待どおりに低下して、市場統合も視野に入ってきたが、燃料費の嵩むバイオマスは、発電コストがなかなか下がらない。当局は、バイオマスを市場統合のプログラムから外し、買取価格を大幅に引き下げたうえで、FITにとどめようとした。
バイオマスの業界団体は、これに反発し、政治勢力を動員して2017年の入札に何とか加わることになったが、先に触れたように入札は散々な結果に終わった。
次々と明らかになる日本型バイオマスFITの「欠陥」
日本のFITがスタートするのは、2012年7月のことである。これに合わせて「日本木質バイオマスエネルギー協会」が発足し、初代の会長に筆者が就くことになった。
あとからわかったことだが、丁度その頃にドイツでは、バイオマスの報償額を遮二無二引き下げるプロセスが始まっていた。日本でも風力や太陽光の電気が安い価格で供給されるようになれば、バイオマスだけを特別扱いすることができなくなり、買取価格は否応なく引き下げられるだろう。
高い買取価格を設定したことが本当によかったかどうか。当初の設定が高ければ、過剰投資のリスクは高まるし、あるいはそれが既得権益化して、あとの調整がますます難しくなる。そのような懸念が年を追うごとに深まっていった。
やがて日本型バイオマスFITの致命的な欠陥が次々と明らかになっていく。プラントの規模に上限を設けず、そのうえ輸入バイオマスも助成の対象としたために、何万キロワットもの大型プラントの応募が相次ぎ、2017年9月末現在の新規認定量は、出力合計で1275万キロワットという信じられないほどのスケールに達した。
制度の欠陥を修正しないまま放置したために、抜け目なく隙を突かれてしまったのだ。だが、恐らく燃料確保の見通しが立たず設立を断念するプラントが続出するだろう。
現に、操業しているプラントだけでも出力合計で116万キロワットになっており、しっかりした燃料サプライチェーンの構築が課題になっている。
ちなみにドイツの場合、FIT対象の固形バイオマス発電は、2014年の時点で全部合わせても150万キロワットしかなく、1プラント当たりの平均出力は0.21万キロワットで、小規模プラントが圧倒的に多い。然るに日本の操業プラントの平均は1.78万キロワットで、大型プラントが卓越する。
制度設計の違いで、これほどの差がもたらされるのだ。
事前に海外でのFITの動向を詳しく調査し、起こり得る事態を想定して、もっと慎重に設計すべきではなかったか。あるいは欠陥に気付いた段階で躊躇なく修正すべきではなかったか。業界団体の会長として何もできないことに忸怩たる思いがあった。
力不足を思い知らされたが、所詮は研究者上がり、自分にできることは調査と分析くらいしかないと割り切って、関連する海外の情報集めに専念した。集めた情報と所感をウェブ週刊誌『環境ビジネスオンライン』のコラム(https://www.kankyo-business.jp/column/columnist/minoru-kumazaki/)に連載し、広い視野で日本の再生可能エネルギー政策を見直してもらいたいと思ったのである。
今は会長職からも解き放たれ、心の赴くままに、こうして過去を振り返っているのだが・・・。