恵まれた条件なしでは「経済事業」として成立しない
2000年にスタートしたドイツのバイオマスFITは、これまでに目を見張るほどの変転を重ねてきた。詳しく説明すると長くなるので、簡単な年表で大きな流れを一瞥しておこう。
なお、この国のFITには、木質バイオマスというカテゴリーはなく、固形バイオマスとなっているが、後者には麦わら(ストロー)のような農産系も僅かながら含まれることに注意されたい。
2000年FITがスタート。買取価格が比較的低かったため、応募してきたのは建築廃材系燃料を使う大型発電が多く、中小規模プラントは僅かであった。
2004年基本レートに加えて中小規模層を中心に「燃料割増し」、「CHP割増し」、「技術割増し」のボーナスが出るようになり、中小規模のプラントで応募が増加する。
2012年マテリアル利用との競合が激しくなり、発電の抑制に傾く。5メガワット以上層での基本レートの引き下げ。総合効率60%以上がFIT買い取りの条件に。
2014年FITから市場プレミアム方式(FIP)に移行。バイオマスFITでは、すべてのボーナスが廃止される。
2017年陸上・洋上風力発電、太陽光発電、バイオマス発電ごとに設置容量の枠と目標価格を定め、公開入札が実施される。
1キロワット時当たりの報償額(買取価格)は、ボーナスが付加されるようになって大幅に引き上げられるが、その後は2009年をピークにして一方的に引き下げられる(以下の図表1参照)。
[図表1]ドイツの固形バイオマスFIT報償額の推移
すなわち2012年の改訂では、「簡素化」の名目で技術ボーナスがなくなり、CHPボーナスが基本レートに組み込まれた。しかし、5~20メガワット層に対しては、これが組み込まれた形跡がない。それどころか基本レートそのものが2009年の7.8セントから6.0セントに引き下げられている。
大型のバイオマス発電にとって、さらに深刻だったのは、総合熱効率60%以上のプラントでないとFITの恩恵が受けられなくなったことである。
電気だけだと変換効率はせいぜい25~30%だ。膨大な発電廃熱のかなりの部分を利用しないことには、60%にはならないのだが、熱のまとまった出口を見つけるのは大変な難題である。基本レートの引き下げと相まって、5メガワット以上の発電プラントはFITから実質的に締め出された。
2014年の改定では、ボーナスが一律に全部廃止されている。その煽りを受けて、木質バイオマス発電で最後まで残っていた原料割増しがなくなった。小規模プラントが大きな影響を受けたことはいうまでもない。安い燃料が手に入るとか、発電排熱が有利に売れるといった、恵まれた条件がないと、経済事業として成り立たなくなるといわれている。
太陽光・風力発電に太刀打ちできないバイオマス
こうした状況を反映して、発電方式別のプラント数の推移(以下の図表2参照)を見ると、在来型の蒸気タービンの伸びが著しく鈍化する一方で、ORCタービン、さらには木材ガス化・ガスエンジンの小型CHPシステムの急増が目立つ。
プラントの電気出力と発電方式を大まかに関連付けると、2メガワット以上が蒸気タービン、数百キロワット~2メガワットがORCタービン、数百キロワット以下がガスエンジンということになる。
[図表2]ドイツのFIT 対応木質バイオマス発電発電方式別プラント数の推移
2017年から再生可能エネルギー電気の入札が始まった。経済エネルギー省の当初の草案では、入札の対象は風力発電と事業用太陽光発電で、バイオマスは外されていた。バイオマスで入札を実施するとなれば、付値の上限を当局が想定する目標値を超えて引き上げねばならないからである。
その一方で、連邦バイオエネルギー協会など業界団体は、入札への参加を強く求めていた。FITの助成期限(20年間)を迎えるバイオマスプラントが2021年以降にドンドン出てくるが、FITの支援切れで、多くのプラントが立ち行かなくなる恐れがあったからである。
紆余曲折のあと、最終的には既設プラントと新設プラントの両方で入札が実施されることになった。
2017年9月に最初の入札が行われたが、12.2万キロワットの募集容量に対して、実際に応募したプラントの合計容量は4.1万キロワットに過ぎず、散々な結果に終わってしまった。
入札における付値の上限が新設プラントで1キロワット時当たり14.88セント、既設プラントで16.90セントであったため、これが障碍になったともいわれている。
しかし、事業用太陽光発電は、同じ年の10月の入札で平均落札値が5セントを割り込み、陸上風力発電のそれは4セント以下になった。一般の電力卸売市場で競争できるレベルにまで下がってきていると見てよい。バイオマスは到底太刀打ちできない。