REITを取り巻く状況は米国金利の上昇で大きく変化
前回は、2017年度米国不動産市場における外人投資家の動向を、数字をもとに解説しました。今回は、2018年に入ってからの、米国REIT市況について見ていきましょう。
まずは、全米REIT協会から発表されている数字を見てみましょう。2018年5月末の全205銘柄の時価総額は、約10.9億米ドル(日本円で1ドル110.54円=1,205.1兆円)でした。一方、東証JREITの全59銘柄の時価総額は12.4兆円で、米国REIT市場が、日本のおよそ100倍の規模を持つことが分かります。
ところが、2018年に入って市場成長が止まっているのです。時価総額が年初からマイナス2.8%となっていますが、米国REIT18セクターのうち、マイナス成長したセクターは12セクターを占めるようになりました。米国REIT市場を取り巻く環境の変化が、今年に入ってあったと考えられます。
一番の要因は、米国金利の上昇でしょう。米国10年債利回りを見ると、昨年10月2.3%後半だったものが、2018年4〜5月には3%台に上昇するに至りました(6月はやや落ち着き2.8%台まで軟化しましたが)。
セクター別で最も下落が目立ったのは、ショッピングセンターのマイナス11.9%、データセンターのマイナス9.2%、戸建て賃貸のマイナス7.1%です。
これらは単に金利上昇だけでなく、構造的なもの、もしくは一時ヒートアップした相場に利食いが出た面もあると思われます。しかし、今後も継続する金利上昇が、相場の重しとなっているのは事実でしょう。
その中で、好調なセクターは、ホテルのプラス10.6%、森林のプラス8.2%、セルフストレージのプラス4.9%となっています。
予測のできない金利情勢が、市場に警戒感を・・・
それでは、個別銘柄を分析することで、時価総額の伸び悩みが業績の影響をうけているのかどうかを探ります。下記の画像は、米国西海岸を中心に賃貸共同住宅の運営を行っている、Essex Property Trust, Inc. (テッカー「ESS」)の数字をまとめたものです。
2015年に、この銘柄の相場は大きく上昇しましたが、ここ数年は相場が伸び悩んでいます。
ところが、対象会社の営業キャッシュフロー(EBITDA)が伸びている状況は、2015年だけではなく2017年にもありました。対象会社の営業キャッシュフローで、サンフランシスコ・ベイエリアが占める割合が大きい銘柄となっており、営業キャッシュフローの伸びは、サンフランシスコ・ベイエリアを起因に生まれています。対象会社の2017年の営業業績が伸びたにもかかわらず、株価はあまり伸びなかったというわけです。
つまり、営業キャッシュフローに対する市場の評価が、保守的になっていることが確認できます。今後上昇するかもしれない金利情勢が、市場に警戒感を与えていると言えるでしょう。
EBITDA倍率の動きに注目してください。2014年に27.6倍だったものが、今では20倍を切る18.5倍となっています。
不動産業界では、共同住宅市場の売買市場は還元利回り(いわゆるキャップレート)で表現しますが、27.6倍はその逆数の3.6%、18.5倍は5.4%と同義語であることから、還元利回りが2014年の3.6%から、2017年の5.4%まで上昇したことになります。
実物不動産市場では、そのような動きが認められていないので、株式市場の投資家が金利上昇等の動きを先取りするかのように、敏感に反応していると言えるでしょう。
(本記事の内容は筆者個人の分析・見解です)