今回は、入居者のリクエストから「賃貸トラブル」を分類していきます。※本連載は、賃貸管理トラブル解決の達人、クマさんこと熊切伸英氏の著書『帰ってきた 助けてクマさん! 賃貸トラブル即応マニュアル』(株式会社 住宅新報出版)より一部を抜粋し、賃貸トラブル対処術を事例別に紹介していきます。

トラブルは「物的・人的・生き物系」に分類できる

我々管理会社が入居者から出された要望に対して、「サービスリクエスト」の精神で臨むということは、第1回ですでにお伝えしたとおりです。これらは、一部を除き次に紹介する賃貸トラブルが元になって出されたものと考えてよいでしょう。ですから、両者は一部を除き、ほぼ一致しています。ここでは、実際にどのようなトラブルが生じているか事例を交えてご紹介いたします。

 

まずは、具体的な事例をご紹介する前に、それぞれのサービスリクエストがどのようなトラブルを元に発生しているのか、概要をお伝えしたいと思います。下記図表1をご覧ください。

 

[図表1]新サービスリクエストの種類

 

▼物的トラブル

 

これは、図表1における物的リクエストにあたります。そして、賃貸管理の仕事で、一番頻繁に起きるのが物的トラブルです。「エアコンが壊れた」「お湯が出ない」にはじまり、「天井から水がたれてくる」まで、建物がある限り、こうしたトラブルはついて回ります。

 

建物や設備に問題があれば入居者に責任はなく、突き詰めれば大家さんが悪いとなるのですが、なかには入居者の使い方が悪くて発生するトラブルもあります。そういった判断も管理会社の役割ですので、何かと奥が深いものです。

 

▼人的トラブル

 

これは、図表1における人的リクエストにあたります。

 

賃貸経営は、部屋を貸して賃料をいただくことで成り立っているわけですが、借りる側としては、快適に暮らせない物件だと感じた場合は、改善を求めるか退去してしまいます。例えば、「上の階の人の歩く音がうるさいので注意したらけんかになった」「自分の借りている駐車場に無断駐車された」など、人がからんでくるのが人的トラブルです。

 

「滞納トラブル」も人的トラブルの一種ですが、誰が悪いのかがハッキリしている分、改善を求める相手が決まっているので、遠慮せず対処ができます。

 

ですが、人的トラブルには、自殺してしまった入居者のご遺族と話し合いをしたり、反社会的な方が相手になったりする場合もあり、重たい対応が必要となるケースでは、こちら側にもかなりの負荷がかかるような対応をしなければならないのが特徴です。

 

▼生き物系トラブル

 

これは、図表1における生き物系リクエストにあたります。

 

細分化するとさらに細かくなるのですが、以前は、建物の問題などの「物」や入居者同士の問題である「人」が原因となったリクエストが大半でしたが、最近では、どちらにも分けられない虫や動物の事例も見られるようになりました。

 

例えば、ハチの巣や鳥の巣、ネズミやハクビシンがトラブルになることも多く、大家さんからも「駆除費用を私が払うの?」と言われてしまうこともあります。そんなときは、「ハチの巣があるから洗濯物が干せないって入居者さんが言ってますよ」と伝えると、渋々ОKしてくれたり、近所に住んでいる大家さんだと退治してくれたりすることもあります。

 

もしこれが、「費用も出してくれない」「自分で退治もしてくれない」となって入居者が限界に達すると、私が仕方なく出動する(スズメバチはやりませんが)ことになるのですが、誰が対処するか互いになすりつけあうのではなく、入居者が困っている案件を解決することを第一に考えるのがサービスリクエストの考え方となります。ということで、私は何度もスリル満点のハチの巣退治に出陣しています。

 

問題解決優先の姿勢を見せるのが、トラブル解決の基本

▼自己原因トラブル

 

これが、サービスリクエストに分類できないトラブルになります。なぜなら、それが物件価値を上げるためのリクエストが前提であると考えるならば、自己原因トラブルはどこにも分類できないからです。そして、トラブルはトラブルでも、物的トラブルや人的トラブルは、管理会社として間に入ることはあっても、ある意味「客観的な立場」でいることができます。

 

「物が壊れて申し訳なかった」と大家さんの代わりにお詫びすることも、騒音トラブルの改善に向けて努力することも、悪いのは自分ではなく、建物や第三者です。その点では割り切ることができます。

 

しかし、割り切れないのが自己原因トラブルです。自分やスタッフのミスで入居者に迷惑をかけてしまったり、強く苦情を言ってくる入居者にイラッとして一喝したら、「絶対に許さない」と退去されてしまったり、場合によっては事故や火災の原因を作ってしまうことすらあるかもしれません。

 

大事故の場合は当然のことですが、小さなトラブルでも自分自身が原因の場合は実に気分が悪く、落ち込むものです。ある意味一番嫌なトラブル対応だと言えます。

 

ですが、トラブルにあったほうの視点で見れば、「責任をとるのは誰か?」という以前に、「問題を解決しろ」という気持ちのほうが強いのが現状です。

 

したがって、「責任をとるのは誰か?」にピントを合わせすぎると、本来の目的である「問題の解決」を後回しにして「逃げている」というイメージがつき、ボタンの掛け違いの発生により、問題解決までの時間が長くなってしまうのです。

 

もちろん、「責任をとるのは誰か?」という点は重要なことではありますが、トラブルの相手方に対しては、「問題の解決を優先」しているという姿勢を見せることが、トラブル解決の基本となります。

 

この点に関しての緩衝材(かんしょうざい)的な調整業務こそ、管理会社の役割であり、大家さんから必要とされる理由なのでしょう。 

 

[図表2]賃貸トラブルの分類図

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    本連載は、2018年2月19日刊行の書籍『帰ってきた 助けてクマさん! 賃貸トラブル即応マニュアル』(株式会社 住宅新報出版)から抜粋したものです。その後の税制改正等、最新の内容には対応していない可能性もございますので、あらかじめご了承ください。

    帰ってきた 助けてクマさん! 賃貸トラブル即応マニュアル

    帰ってきた 助けてクマさん! 賃貸トラブル即応マニュアル

    熊切 伸英

    株式会社 住宅新報出版

    初版『助けてクマさん! 賃貸トラブル即応マニュアル』発刊から7年。 賃貸管理トラブル解決の達人、クマさんが帰ってきた! 長年の経験に基づく、現場に役立つリアルな事例を交えた賃貸管理トラブル解決のヒントを伝授!

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