前回は、「診療圏調査」のポイントについて紹介しました。今回は、クリニックを開業する際に加入しておきたい「保険」と、その理由を見ていきます。

家族に借金を残さないためにも「団信」には必ず加入

開業にあたっては、さまざまな保険に加入することになります。まず、必ず入っておいたほうがよいのは、開業資金を借りるときに、金融機関からすすめられる団体信用生命保険(以下、団信)です。

 

団信とは、ローンの契約者が返済中、万一事故や病気で死亡した場合、生命保険金で金融機関に借入金を全額返済し、ローン残高がゼロになる保険です。保険金の受取人は金融機関になります。

 

団信の特約料(団信の場合、保険料ではなく特約料と呼びます)は、たとえば「元金均等返済・借入金額4000万円・返済期間10年・元金据え置き期間3カ月」という条件で試算した場合、10年で81万1230円となります(資料出所:公庫団信サービス協会)。

 

決して安くはありませんが、家族に莫大な借金を残すことだけは避けなければならないので、任意加入とはいえ必ず入りましょう。なお、団信の特約料は、支払い保険料全額が必要経費となるため、税金面でも有利です。

ブレーンのアドバイスを受けながら入る保険を決める

また、団信ばかりでなく、家族を保険金の受取人とする生命保険(死亡保障)にも加入しておくと安心です。団信によってローンがなくなったとしても、蓄えがなければ大黒柱を失った家族が生活に困る不安があるからです。

 

死亡保障の保険は、若いうちに入ったほうが保険料は安くなるため、開業が本決まりになる前から入っておくのが無難です。ただし、生命保険の保険料は必要経費にならず、生命保険料控除を適用させることになります。

 

また、めったにないことではありますが、医療上の事故が発生し、患者さんへの賠償が高額に及んだ場合に備えて、損害保険の歯科医師賠償責任保険は必ず加入しましょう。医療事故のほか、歯科医院内での事故(たとえば、煮沸器の故障でやけどを負わせてしまった・・・など)も、補償の範囲内です。

 

同じく損保で、所得補償保険に入っておくのも得策です。これは突然の病気やケガなどで歯科医が休業を余儀なくされた場合に、補償が受けられる保険です。休業によってダイレクトに収入が途絶えてしまう開業歯科医にとっては、非常に頼もしい存在です。

 

歯科医師賠償責任保険、所得補償保険の保険料は保険会社によって異なりますが、いずれにせよそれほど高額ではないので、念のために加入しておくと安心です。

 

そのほか、建物を守る保険として、通常は火災保険に入ります。テナント開業の場合は、医療機器を含めた家財に対する火災保険に借家人賠償責任保険という特約をつけて入ることを義務付けられる場合があります。読んで字のごとく、部屋を借りている人が火事などを起こしてしまった場合、家も賠償できるように入っておく保険です。

 

施設賠償責任保険といって、施設・設備などの所有、使用及び管理上の事故などにより負担することになった、法律上の賠償を補償する保険もあります。歯科医院の場合、水を使う作業が多いことから、この保険に入る場合は漏水に備えられる漏水担保特約をつけるのも手です(歯科医師賠償責任保険に含まれていることもあります)。

 

ですが、いくら不安だからといっても、保険に入りすぎると保険料の負担が重くなりすぎてしまいます。保障のダブリなどがないように、やはり外部ブレーンのアドバイスを受けながら契約するのが無難です。

本連載は、2014年3月20日刊行の書籍『一生稼げる歯科医院開業読本』から抜粋したものです。その後の税制改正等、最新の内容には対応していない可能性もございますので、あらかじめご了承ください。

一生稼げる歯科医院開業読本

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松本 泰世

幻冬舎メディアコンサルティング

歯科医師とほかの診療科の医師との大きな違いは、近い将来いずれは独立開業を迫られることになるという点です。開業準備は早ければ早い方が有利になります。しかし、具体的に何から手を付ければよいのかが分からずに開業準備を…

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