今回は、大手エネルギー供給事業者「Enel社」が、ベンチャー企業「eMotor Werks社」に出資した事例を紹介します。※本連載では、野村総合研究所の著書『エネルギー業界の破壊的イノベーション』(エネルギーフォーラム)より一部を抜粋し、エネルギーシステムの変革に挑む、欧米大手電力事業者の動向を紹介します。

電力関連サービスも提供するeMotor Werks社を買収

eMotor Werks社は、EV充電器を介してEVへの充電量を制御し、カリフォルニア州の独立系統運用機関であるCAISOに対してアンシラリーサービスを提供する事業者である。充電器の販売のみならず、自らアンシラリーサービスなど電力関連サービスも提供しているという点で、先進的な取り組みを行っているベンチャー企業といえる。

 

eMotor Werks社は、2017年10月にイタリアの大手エネルギー供給事業者であるEnel社に買収されている。Enel社は、ローマに本社を置く、顧客数では欧州最大のエネルギー供給会社である。イタリアを含め世界五大陸の30カ国以上に展開しており、全世界の顧客数は電力では5604万人、ガスでは5390万人にも上る。

 

すでに販売電力量やガス販売量では、イタリア国外の規模がイタリア国内の規模を大きく上回っており、世界的に事業を展開するエネルギー供給事業者といえる(以下図表1を参照)。

 

[図表1]Enel社グループの概要(2016年)

出所)Enel社公開資料などをもとに野村総合研究所作成
出所)Enel社公開資料などをもとに野村総合研究所作成

目指すのはエネルギーシステム分散化への対応

なお、Enel社グループは、eMotor Werks社の買収に先立ち、2017年8月、DR事業者である米国のEnerNOC社を買収している。EnerNOC社は、米国のボストンに本社を置き、DRを中心として、エネルギー関連サービスを手掛ける事業者である。同社が展開するDR事業は、系統運用機関からの指令に応じて需要家の設備を制御し、需要を削減することで、系統運用機関から収益を得るというものである。

 

EnerNOC社は、公共機関や教育施設、製造業、ヘルスケア企業などの業務・産業需要家を顧客としており、顧客には、3M社やPepsico社などの企業に加えて、フィラデルフィア市などの地方自治体も名を連ねている。

 

同社の顧客数は8000、サイト(用地)数は14000を数え、系統運用機関に提供するDRの容量は、合計6MWにも上る。ただし、DR事業は市場ルールの変更を受けやすく、競争環境も厳しくなってきたことから近年は、エネルギー利用を最適化するソフトウェア事業や、エネルギー調達を最適化する事業にも領域を広げ、収益基盤の安定化を図っていた。

 

Enel社グループが2017年8月に大手DRアグリゲーターであるEnerNOC社を買収した矢先に、今度はEVの大手アグリゲーターであるeMotor Werks社を買収したのは、大手エネルギー供給事業者が需要家側のソリューションに事業領域を広げていることを示す象徴的な出来事であった。

 

Enel社もまた、エネルギーシステムの分散化に対応するために、こうしたパートナリングを進めているといえるだろう(以下図表2を参照)。

 

[図表2]Enel社グループの分散電源サービス関連の主な出資先

出所)Enel社公開資料などをもとに野村総合研究所作成
出所)Enel社公開資料などをもとに野村総合研究所作成

この連載は、書籍『エネルギー業界の破壊的イノベーション』(㈱エネルギーフォーラム)からの転載です。

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