ミサイルの日本上空通過後は「円高・株安」傾向に
2017年の株式市場は、北朝鮮の地政学リスクに翻弄され続けたといっても過言ではない。同年の4月だけでも4日、16日、29日と3回もミサイルを発射している。マーケットはこの事態に反応、急速な円高が進んだ。有事の円買いである。
ドル円相場は、同年3月31日の1ドル112円19銭(高値)が4月17日には108円12銭(安値)までドルが売られた。一気に4円7銭の円高である。これまでのケースを見ても、ミサイルの日本上空通過後は円高になるパターンが多い。このような局面では、投機筋の暗躍もあろう。
同じく、日経平均株価も3月31日の1万9210円(高値)が4月17日には1万8224円まで下げた。値幅にして986円、率では5・1%もの急落である。その後、日経平均株価は戻りに転じ、同年6月20日には2万318円の高値をつけている。
[図表1]北朝鮮の挑発行為と日経平均株価の推移
投機筋はミサイルの着弾地点を知り得る立場にあった⁉
しかし、北朝鮮は5月以降もミサイルの発射実験を続け、これが株価の上値を抑える大きな要因となったことは間違いない。東京株式市場が3連休となる前日の8月10日には、先物が夜間取引(16時30分→翌日5時30分)で急落し、連休明けの8月14日、日経平均株価は窓をあけて1万9486円まで下げた。
なぜ、そうなるのか。それは投機筋が全国瞬時警報システム「Jアラート」に反応、「円買い・株売り」のポジションを仕掛けたためだろう。
そして、8月29日には北朝鮮は、北海道上空を通過する弾道ミサイルを発射した。これは2017年に入って13回目のミサイル発射であり、かつてない頻度だった。
このミサイルは、同日午前6時58分に平壌郊外の区域から発射され、北海道の襟裳岬の東約1180キロメートルの太平洋上に落下した。投機筋は、着弾地点を知り得る立場にあるのではないか。でなければ、円買いを断行しないと思う。
ミサイル発射の4分後(午前6時2分)、「ミサイル発射。ミサイル発射。頑丈な建物や地下に避難して下さい」という「Jアラート」が日本政府によって伝えられた。NHKも、テレビの全画面を使ってメッセージを伝えた。
[図表2]日本列島を通過した北朝鮮のミサイル(方向)(2017年8月29日)
ちなみに、北朝鮮のミサイルが日本列島の上空を通過したのは、過去にも4回あった。前回は、2009年4月に長距離弾道ミサイル「テポドン2号」改良型を、人工衛星の打ち上げと称して発射している。しかし、8月29日のミサイル発射は、日本だけでなくアメリカにも大きなショックを与えた。アメリカ本土は独立戦争後、これまで他国の攻撃を許したことはない。このため、〝免疫〟がないのだろう。
日本政府の発表によると、このミサイルの飛行距離は約2700キロメートルである。これは、いつでもアメリカ領グアムに撃ち込めることを意味する。つまり、日米両国にとって、これまでのケースと比べはるかに大きな脅威を与えたのである。
ただ、8月29日の日経平均株価は1万9319円と、窓をあけて寄り付いたものの、引け値は1万9362円まで戻した。前日比87円安の小幅マイナスにとどまり、その後9月1日には1万9735円まで反発している。