今回は、異常値を察知して、冷静なマーケット分析に役立つ「空売り比率」「VIX指数」を取り上げます。※本連載では、経済評論家・杉村富生氏の著書、『東京オリンピックまであと2年 新成長株で勝負せよ!』(すばる舎)の中から一部を抜粋し、東京オリンピックまであと2年となった今、投資で勝つための「日本株を取り巻く現状」を解説していきます。

空売り比率が上昇すると株価の上値は重くなる

相場の現状を正しく認識するには、「空売り比率」を活用する方法もある。空売り比率は、東京証券取引所のホームページで確認することができるほか、翌日の日本経済新聞のマーケット総合欄にも掲載されている。

 

空売り比率とは、東証1部の売買代金に対する空売り(信用売り)のウエイトを示している。つまり、空売り比率が40%のケースでは売買代金の4割が空売り(貸し株を含む)ということになる。

 

通常、空売り比率が上昇すると株価の上値は重くなる。だが、空売りをした株式(玉)はいずれ買戻しをする必要がある。空売り比率のピークは相場反転の重要なサインにもなる。空売りは「買いの予約」である。

 

図表1を見ると、2017年の4月3日以降、空売り比率は連日40%を超え、4月6日は実に45.3%という滅多にお目にかかれない〝異常値〟となった。これは、それだけ相場の先行きが弱いと思われている証拠である。実際、同月14日に終値ベースの安値をつけた。売る人が多ければ、下がるのは当然だろう。

 

[図表1]空売り比率と恐怖指数の推移(2017年)

(出所)東京証券取引所ほかのデータをもとに作成
(出所)東京証券取引所ほかのデータをもとに作成

しかし、相場はここを起点に反騰に転じる。5~6月と上昇し、6月20日に日経平均株価は2万230円で引けた。この日の空売り比率は35.0%である。

 

9月にも同じような現象が起きている。同月5日に空売り比率は45.3%(4月6日と同率)まで上昇し、8日に日経平均株価は1万9275円まで下げた。ただ、その後は空売り比率の減少とともに、株価は急反騰に転じた。空売り比率が43〜45%という異常値になった場面は、黙って買うところだろう。

 

結果的に、日経平均株価は2017年9月8日で底入れとなったわけだが、その後の急反騰劇は「売り方がつくった相場」ともいえる。ちなみに、同年10月2日〜24日にかけ、日経平均株価は16連騰という戦後最長の記録をつくったが、24日の空売り比率は37.8%とまだ高水準である。

 

さらに、空売り比率は10月26日に40.6%となり、同月30日には44.0%まで上昇した。この日、日経平均株価は2万2011円で引けている。しかし、「いくら何でも上がりすぎ」と考えた売り方の思惑とは裏腹に、日経平均株価は11月9日のザラバで2万3382円の高値をつけた。

恐怖指数(日経平均VI)は「目先の底」を見極める⁉

もう1つ注目しておきたいのが、「日経平均ボラティリティ・インデックス(日経平均VI)」である。これは、俗に「VIX(恐怖)指数」とも呼ばれるもので、本家はシカゴ・オプション取引所がS&P500を対象に、オプション取引のボラティリティ(変動率)をもとに算出している。

 

ともに指数の数値が高いほど、投資家が相場の先行きに不安(恐怖)を抱いているとされる。通常は10~20ポイントの間で推移するが、先安感が顕著になると30〜40ポイントを超えることもある。

 

2017年1月4日(大発会)、日経平均株価はいきなり前年比479円高でスタートしたが、この日の日経平均VIは20.83ポイントだった。先安を暗示する数値である。結果、同月18日に日経平均株価は1万8650円まで急落した。北朝鮮リスクを警戒したのだろう。

 

あまり細かい数字にこだわる必要はないが、4月に入ると、日経平均VIは10日の20.10ポイントを皮切りに、18日まで連日20ポイント台で推移した。最大値を記録したのは4月14日で、日経平均株価は終値ベースで安値をつけている。

 

逆に、6月20日に日経平均VIは13.52ポイントまで下がった。この日は先にも触れたが、空売り比率が35.0%を記録した日である。結果的に、2つの指数は「高値到達」を見事に言い当てた。同日の日経平均株価のザラバ高値は2万318円であり、これが2017年前半の最高値である。

 

さらに、日経平均VIは、8月2日に12.19ポイントをつけている。これは、2010年に算出を開始して以来、最低の水準だったが、このときも「目先の天井」をズバリ的中させた。日経平均株価は、8月29日に1万9280円まで下げている。

 

反対に、反騰劇のサインとなったのが、9月8日の19.22ポイントである。9日の北朝鮮建国記念日を懸念した数値だったが、約4カ月半ぶりの高水準となったことで、売られすぎのサインとなった。

 

結果的に、この日が「目先の底」となり、その後の日経平均株価は大きく反発した。長期・逆張りは多くの投資家が「もうダメだッ」という局面を買うに限る。

 

このように、空売り比率と日経平均VIは連動する傾向にあり、2つの数値を併用すればマーケットの現状がより正しくつかめると思う。

 

もちろん、2つとも絶対的な投資指標ではない。だが、〝異常値〟を察知して冷静なマーケット分析と判断をすれば、少なくとも北朝鮮のニュース報道に右往左往し、パニック的な売買を行なうような〝愚〟は避けられるだろう。

 

つまり、空売り比率、VIX指数は上昇→弱気、下降→強気という単純なモノサシではない。空売り比率、VIX指数については、その水準がピークのときに勇気をふるって買い出動、ボトムのときに売り上がる、という使い方ができる。要するに、これらの投資指標は、逆張りのシグナルとして使ったほうが効果的である。

 

[図表2]空売り比率、恐怖指数と日経平均株価

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    本連載は、杉村富生氏の著書『東京オリンピックまであと2年 新成長株で勝負せよ!』(すばる舎)から一部を抜粋したものです。掲載している情報は、投資の勧誘や個別銘柄の売買を推奨するものではありません。投資はご自分の判断で行ってください。本連載を利用したことによるいかなる損害などについても、著者、出版社および幻冬舎グループはその責を負いません。

    東京オリンピックまであと2年 新成長株で勝負せよ!

    東京オリンピックまであと2年 新成長株で勝負せよ!

    杉村 富生

    すばる舎

    1949年熊本生まれ。明治大学法学部卒業。軽妙な語り口と分かりやすい経済・市場分析、鋭い株価分析には定評がある。「個人投資家サイドに立つ」ことをモットーに精力的な活動を続けており、兜町における有望株発掘の第一人者と…

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