IT企業群に向かい風が吹くものの、株価は影響なし
前回は、住宅価格上昇を引き起こしている、全米に広がる在庫住宅不足について検証しました。今回は、サンフランシスコ・ベイエリアに所在する、巨大IT企業3社の2018年第1四半期までの業績を見ていきましょう。
4月最終週から5月第1週にかけて、シリコンバレー不動産市場を牽引する巨大IT企業3社、アップル、グーグル、フェイスブックの2018年第1四半期決算が発表になりましたので、それらを簡単に下表にまとめてみました。
[図表]アップル、グーグル、フェイスブックの2018年第1四半期決算
この数年、売上高・EBITDA(償却前営業キャッシュフロー)が14%プラスの増収増益になるなか、企業価値・時価総額、すなわち株価が40〜50%値上がりする状況になっています。
トランプ政権のIT企業に対する規制強化政策、フェイスブックの個人情報漏洩問題、アップル社のiPhone Xの販売不振など、シリコンバレーに所在するIT企業群には向かい風が吹いています。
しかし、株価にも影響が出ているかと思いきや、大きな押し下げ要因にはなっていないというのが実情です。やはり、投資家は実際に業績に影響が出てくるまで、投資を継続するものと考えられます。
巨大IT企業の「移民採用」が不動産価値を左右する!?
バリュエーション的には、2013〜2016年の水準が適正と考えれば、2017年からは25%程度楽観的になっているものと考えられます。その背景を探ってみたいと思います。
市場調査会社CB Insights社の調べによると、2013年に米国でIPOした、VCがスポンサーのIT企業が初回の資金調達時期からIPOまで6.9年だったのに対して、2017年に米国でIPOしたIT企業のそれが、8.9年と長期化していることを指摘しています。
さらに、IPOマーケットは2014年をピークにIPO件数が回復基調にはあるものの、未だ2014年の水準に戻っていないことを指摘しています。さらに、フォーチュン500、および巨大IT企業群によるVCにサポートされたIT企業のM&A件数も、2014年をピークに逓減状況にあります。
背景には、未公開企業でありながら巨額の資金調達が可能となっていることがあると思われます。一方、2018年にIPOを予定している米国内IT企業の70%が、シリコンバレーから予定されています。
以上のことから、IPO市場では回復基調にあるものの、大きく儲けを期待できないことから、投資家の触手が巨大IT会社を筆頭とした上場IT会社群へ向かっていることが、企業のバリュエーションを楽観的にしている原因と考えられます。
また、2018年に入ってから顕著に上昇し続けている米国長期金利が、3%前後を維持する状況となっていますが、企業の借入比率・コストが比較的少ないIT企業に投資家の資金が比較的借入が多く、リターンが低下すると考えられる業種から流入する素地を作りだしているとも言えます。
サンフランシスコ・ベイエリアへの人口流入・流失の状況を考えると、ほかの地域と比較すれば、生活コストの高いサンフランシスコ・ベイエリアにおける不動産価値の動向は、言うまでもなくアジア(特に中国とインド)からの移民に支えられている部分が大きいでしょう。
グーグル、アップル等のような、移民採用を多く実施している巨大IT企業の業績のゆくえと、その動向から目を離せない状況となっています。
本記事の内容は筆者個人の分析・見解です。