前回に引き続き、企業のプロジェクトの「公正価値」を求める具体的な手順を見ていきます。今回は、IRR法について解説します。※本連載はジブラルタ生命保険株式会社勤務、冨島佑允氏の著書、『投資と金融がわかりたい人のためのファイナンス理論入門 プライシング・ポートフォリオ・リスク管理』(CCCメディアハウス)から一部を抜粋し、株や債券、事業や不動産などの「本来の価値」を推定するプライシング理論について解説します。

正味現在価値が「ゼロ」になる収益率を逆算するIRR法

前回の続きです。

 

②IRR法

NPV法と同じく広く使われている方法に、IRR法があります。英語の「Internal Rate of Return」の頭文字を取ったもので、日本語では内部収益率法と呼ばれます。この方法は、プロジェクトのNPV(正味現在価値)がちょうどゼロになるような収益率を逆算するというものです。つまり、初期投資額とプロジェクトの価値(将来キャッシュフローの割引現在価値)がちょうど均衡するような収益率を求める方法です。

 

NPV法の説明で用いたプロジェクトの例を考えてみましょう。キャッシュフローは、図表のようになっていました。初期投資は出金になるので、マイナスで表現しています。

 

[図表]プロジェクトXのキャッシュフロー

 

ここで、NPVがゼロになる内部収益率(IRR)の値を求めるには、以下の方程式を解く必要があります。

 

 

この方程式を手計算や電卓で解くのは難しいですが、エクセルのXIRR関数を使えば、IRRの値を簡単に求めることができます。実際にエクセルで解いてみると、IRRは7.7%となります。これは、このプロジェクトのハードルレートが7.7%以下であれば採算が取れるということを意味しています。

IRRがWACCより高ければゴーサイン

少し抽象的でわかりにくいので、具体的なイメージを持ってもらうために、銀行預金と対比させて考えてみましょう。IRRが7.7%のプロジェクトに投資するということは、お金を預金金利7.7%の銀行口座に預けるのと同じとみなせます。預金金利7.7%の銀行口座にまず200百万円を預け、1年目に55百万円を引き出し、2年目に80百万円を引き出し、3年目に100百万円を引き出すと、ちょうど口座残高がゼロになります。この場合、200百万円の預入に対し、正味で235百万円を引き出しているのですが、うち35百万円は預けている期間中に利息で増えたお金に相当します。

 

プロジェクトも、銀行預金と同じようなものだと考えることができます。初期投資は、銀行口座への預入に相当します。そして、プロジェクトからの収益は、銀行口座からの引出に相当します。IRR法は、プロジェクトのキャッシュフローを銀行口座への預入・引出と考え、最終時点で口座残高がゼロになるような預金金利を計算しているということになります。預け入れたお金に比べて引き出せるお金が多いほど、収益率が高いプロジェクトと判断されるわけです。

 

プロジェクトへの投資可否は、基本的にはIRRとWACCを比較することで判断します。つまり、IRRがWACCより高ければゴーサイン、低ければ投資不可ということです。

投資と金融がわかりたい人のためのファイナンス理論入門

投資と金融がわかりたい人のためのファイナンス理論入門

冨島 佑允

株式会社CCCメディアハウス

投資に使える! 金融がわかる! これから始める人でもファイナンス理論の“あの独特な考え方”が一から理解できるように、資産運用に携わってきた金融のプロが 1.プライシング理論(“本来の価値”をどうやって求めるか?…

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