今回は、信託契約のキーとなる「目的」の書き方と具体的な記載例を見ていきます。※本連載は、税理士・菅野真美氏の著書、『老後の備え・相続から教育資金贈与、事業承継まで「信託」の基本と使い方がわかる本』(日本実業出版社)の中から一部を抜粋し、「信託」のメリットと使い方をご紹介します。

契約を締結することで効力を生じる「信託」

信託で一番利用されているのは、契約による設定です。委託者と受託者が契約を締結します。契約ですから口頭でも締結は可能ですが、実際には契約書を作成することになります。

 

信託というしくみは、契約を締結することにより効力を生じます。契約を締結し、委託者は信託設定された財産を受託者に引き渡し、受託者が自分の所有する財産として契約に従って管理・運用することになります。

 

遺言の場合は、委託者が死亡していることから、委託者以外の人が受益者となりますが、契約の場合は、委託者自身が受益者となることもできます。一般的に委託者が受益者である信託を「自益信託」、委託者以外の者が受益者である信託を「他益信託」といいます。

 

また、遺言の場合は、信託の効力が生ずるのは委託者の死亡後になることから委託者は信託が自分の思ったとおり運営できているか確認できません。そこで、生前に財産を信託し、生前は自分を受益者、自分が死亡した後は自分の指定する人を受益者とする信託を設定すると、実質的には遺言と同じような機能を発揮し、かつ、自分で信託の運営を確認できます。このような信託を「遺言代用信託」といいます。

 

信託契約には、信託がうまく機能するように必要なことが書き込まれますが、そのキモは、委託者が、なぜ、信託というしくみを設定したのかという理由が記されている「目的」です。

 

目的は簡潔な言葉で記載されていますが、実はその言葉の裏には委託者の深い思い入れがあり、信託を設定する際は、それを理解したうえで、その思いが実現できるように設計します。ただ、信託を設定した時点から時間が経過すると、家族の状況、財産の状況、周りの環境が大きく変わることもあり、その変化に対して、柔軟に信託を変更できるように設定する方法と、どんな変化がおこったとしても変更しないという設定方法があります。信託契約で信託の変更について何も決めていなかった場合は、委託者、受託者、受益者の合意で変更は可能となります。

 

信託設定の相談を受け、信託契約の作成等を依頼された専門家は、契約設定前に、委託者の希望をじっくり聴き、信託のしくみをきちんと説明し、信託の設計過程で何度も話し合いを行い、信託の効果がどうなるのかについて十分納得してもらってから契約締結すべきと思います。信託契約で決めることのうち最低必要と思われるものは遺言と同様です。

信託契約書の記載例

ここでは、最低必要と思われる項目に絞ったシンプルな信託契約例を以下に記載します。なお実例は多様な事象を想定して対応することから、より多くの項目が盛り込まれます。

 

<例>

資産家の山田太郎は最近、物忘れがひどく体調も良くありません。妻はすでに他界していて、今後の自分の生活に不安を感じた山田太郎の希望は以下のとおり。

 

●自分が所有している現在空地の土地を賃貸して、そこから生ずる地代収入を自分の生活費、介護費、医療費として使ってほしい。

●不動産の管理や支払いは、親の面倒をまったくみない長男の一郎ではなく長女の愛子に委ね、自分が死んだ後は、この不動産は愛子に渡したい。

 

この太郎の希望を実現するために設定した信託契約は、以下のとおりです。

 

[図表1]自分の生活支援のための信託契約スキーム

 

[図表2]このケースでの契約書例

 
老後の備え・相続から教育資金贈与、事業承継まで 「信託」の基本と使い方がわかる本

老後の備え・相続から教育資金贈与、事業承継まで 「信託」の基本と使い方がわかる本

菅野 真美

日本実業出版社

信託のメリットと使い方がよくわかります。成年後見、遺言、贈与の使い勝手の悪い部分を解決して、あなたの“想い”を叶えましょう。 <目次1> 第1章 老後の生活や資産承継のツールと課題を学ぼう(「老い」を自覚…

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