一代で11の医療・介護施設の開業に成功した医師の軌跡から、事業拡大における極意を見ていく本連載。今回は、その第21回です。

ライバル施設がないため、開業前から予約が続々と・・・

スタッフも揃って開業準備に明け暮れていたなか、思ってもみなかったことが起きました。

 

開業する前から、クリニックに透析患者の予約が続々と入ってきたのです。前に担当したことのある患者さんや、ほかに通っていたけれども自宅の近くに病院ができると聞いて、試しに行ってみようと思った方など、理由はさまざまです。近くにライバルとなる透析施設がないというのは、こんなに有利に展開するのだな、と我ながら感心したぐらいです。

 

人工透析は、一度につき症状が軽くて3時間程度、通常4時間ぐらいの治療が必要になります。これを週2~3回ぐらいのペースで行います。開業時の透析ベッド数は20床。初日だけで48人の患者さんが来ることになったので、限られた床数のなかで効率よく回していかなければなりません。全員が手探りのなか、ひとまず何とか無事にその日を終えることができました。

 

ただ同時に、不安を感じたのです。初日は何とか間に合わせ、うまく回すことができました。しかし、今後、患者さんが増えてきたらどうすればいいのだろう。その予想どおり、次第に患者数が増えていき、開業から3週間後には夜間透析もスタートしました。そうしなければ治療が回らなくなってしまったのです。そしてついに3カ月後には、2階の病室を透析室に改築し、ベッド数をさらに増やすことになりました。

 

初年度で61人の患者さんの治療を行い、現在に至るまで、おかげさまで患者数は右肩上がりに増えています。

 

これだけ大勢の方々が私たちの施設を頼りにしてくれているということです。私たちはその期待に応えなければなりません。休む間もほとんどなく、フル回転の日々を送りました。

 

[図表] 患者数推移

患者の負担を軽減するため、無料送迎サービスを開始

明生会がモットーとすることの一つに、「患者さんに対して、なるべく負担をかけないようにすること」が挙げられます。

 

日本透析医学会が毎年発表する「わが国の慢性透析療法の現況」によると、2015(平成27)年現在、全国の慢性透析患者数は32万4986人(前年比4538人増)。また平均年齢は男性が68・37歳、女性は70・95歳。男女合計では69・20歳となっています。もちろん若いうちから何らかの病気で人工透析が必要になった方も大勢いますが、基本的には平均年齢が示すように、患者さんの多くは高齢者です。

 

※日本透析医学会HP〈図説わが国の慢性透析療法の現況〉参照

http://docs.jsdt.or.jp/overview/index.html

http://docs.jsdt.or.jp/overview/pdf2016/p002.pdf

http://docs.jsdt.or.jp/overview/pdf2016/p008.pdf

 

そのうち千葉県内在住の患者さんたちが、生きるために必死になって週何回か東葉クリニックに遠くからも通ってきてくれています。首都圏とはいえ、千葉県でも場所によっては交通機関が整っていない地域があり、車がないと買い物も不便な「車社会」です。

 

しかし高齢者の方がみなさん運転できるわけではありません。最初から免許を持っていない人や年齢的に免許を返上された人もいるでしょうし、もう寝たきりに近く運転などできないような人もいます。自分で来られない方たちは、家族に送り迎えをしてもらって通院していました。すると当然、家族の方の生活リズムや個人的な予定にも影響を及ぼしてしまいます。そんな人たちに対し、いかに手を差し伸べるか。これも大きな問題となりました。

 

そこで私たちは専属の車両部を設けることにしました。つまり、透析の時間が近づいたら患者さんを自宅まで迎えに行き、治療が終わったらお送りするのです。しかもすべて無料で、一切負担はおかけしません。

 

単純に経営だけを考えたら有料にすべきですが、年金暮らしの方々も多いうえ、みんなが裕福な家庭とは限りません。そんななかから生きるための治療費を捻出していただいているのですから、こちらは命を守るために手を尽くさなければならないというのが、組織のモットーの一つです。だから、この送迎サービスはあくまで採算度外視。どんなに遠いところからでも、通院が困難な患者さんについては、無料の送迎付きで対応しています。

 

無料送迎サービスを実施して、かなり遠距離から通われていたお年寄りの女性から、「ありがとうございます」と握手とともに涙ながらに感謝されたことが印象深く残っています。この送迎は開業時から現在まで続けている明生会独自のサービスです。

ドクター・プレジデント

ドクター・プレジデント

田畑 陽一郎

幻冬舎メディアコンサルティング

医療者である開業医が突き当たる「経営」の壁。 経営者としてはまったくの“素人”からスタートした著者は、透析治療を事業の柱に据えて、卓越した経営センスで法人を成長させていく。 徹底的なマーケティング、2年目で多院展…

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