一代で11の医療・介護施設の開業に成功した医師の軌跡から、事業拡大における極意を見ていく本連載。今回は、その第31回です。

人工透析も、症状によっては脳外科の知識が必要に・・・

前回の続きです。幕張は、東日本大震災の影響を大きく受けた地域の一つです。震災以来、千葉県ではときどき大きめの地震が頻発しています。

 

どんなに大きな災害があったときでも、人工透析患者は治療を受け続けなければ命を落としてしまいます。明生会としては、新しい地域への進出はチャレンジでしたが、スタッフの優れている本郷会らしく、懇切丁寧な応対で地域に貢献していただいています。

 

もう一つ、明生会独特の医療を行っているところがあります。それが、「東葉クリニック大網脳神経外科」です。その名称のとおり、脳溢血や脳梗塞などの脳神経治療と人工透析を共存させた施設です。

 

人工透析とは、腎臓に障害が起きて本来の機能を果たせなくなった場合に、腎臓に代わってその作業を行ってあげることです。大きく分けると、老廃物を濾過して尿として排泄できるようにすることと、もう一つは、血液の濾過を行って、血液中から老廃物を取り除き、全身に行きわたるようにすることです。

 

近年、必要性の高まってきたのが生活習慣病、特に糖尿病が原因となる人工透析です。

 

糖尿病になると血中に必要以上の糖がにじみ出て、血液中のタンパク質と結合して「糖タンパク質」がつくられ、動脈硬化など循環器系に大きな疾患を引き起こします。動脈硬化を起こすと、血管内に血の固まりができ、血行を阻害するほかに、その固まりが剥がれて血栓となり、脳や心臓の動脈に詰まり、脳梗塞や心筋梗塞などを起こしてしまいます。

 

脳梗塞の場合、処置が遅くなると死亡したり、死なないまでも半身麻痺や言語障害などの重い症状を残してしまいます。人工透析も循環器系の治療ですから、症状によっては脳外科の知識を必要とする場合があります。

 

ただ、その診断が難しいのです。例えば脳出血なら裂けた脳の血管を塞がなければならないし、脳梗塞なら逆に血管を広げて詰まりを解消しなければなりません。処置としては真逆です。その見分けをとっさに行い、対応する必要があるのですが、そちらの分野については、私はむしろ専門外となってしまうので、なかなか判断しかねるのです。

脳神経外科の専門医を説得し、複合治療を試みる

そこで、脳神経外科が専門の小宮博一先生を説得して明生会へ来ていただき、人工透析と脳神経外科を複合させた治療を試みるようになりました。

 

この複合技術は、当時はまだあまり研究されておらず、実績やデータもない分野でした。一方、小宮先生は脳神経外科では優秀ですが、人工透析については専門外なので、穿刺やその他の透析技術、薬の調節など、いろいろと試行錯誤やご苦労があったそうです。

 

それでも何とかチャレンジをしてもらい、脳神経と人工透析の関係について研究を深めてもらいました。著書には「透析スタッフのための脳梗塞治療ハンドブック」などがあります。この様に大網の透析施設を守っていただいています。

 

当初は自分自身の手による「チェーン店化」ばかりを考えていましたが、こうして協力していただける医療法人と手を組むことで、より広い地域にまたがって人工透析治療ができるようになったのです。その後、2016(平成28)年には、千葉市内で難病指定医の資格も持つ、櫻井信也理事長兼院長の昭和の森クリニックとも提携を結び、現在に至っています(以下の図表参照)。

 

[図表]患者数推移

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