一代で11の医療・介護施設の開業に成功した医師の軌跡から、事業拡大における極意を見ていく本連載。今回は、最終回です。

3軒目以降は、当初の50%程度の労力で設立が可能に

人工透析をする医療機関の場合、一つの施設の中に医師、臨床工学技士、看護師、医療事務等が常駐していなければなりません。

 

医師は必ず必要ですから、どうしても休んだりしなければいけない場合には、非常勤や他施設の医師に来てもらったり、それも難しければ私たちが入ったりしています。

 

私の場合、現場に立ちたくてうずうずしているのですが、最近は「理事長はちょっとお待ちください」と止められることも多くて、少々寂しい気持ちもあります。しかし、各施設の「報・連・相」を全て確認できるシステムを構築しておりますので、逐一状況は把握できます。

 

また、施設の建設とのからみから見ると、最初の施設をつくった時には、まさにゼロからのスタートですから、労力も100%かかります。建物の設計、動線の設定、スタッフ集め、設備の決定と搬入から、使いやすさの研究、各種手続きの知識、スタッフの教育など数え切れないぐらいやることがあり、頭と時間とお金をフルに使って最善のものとしなければならないという苦労があります。これを100%とします。

 

しかし2軒目になると、最初のノウハウが多少積み上がっていますから、その分参考にできるものがたくさんあり、設計士さんも建設会社も設備の搬入先もすべて決まっているため、感覚的には初回の80%ぐらいの苦労で済みます。

 

3軒目以降は、間取りや動線はほぼ決まっていますし、慣れたスタッフを何人か送り込んでトップに置き、新しいスタッフを教育するような余裕ができるため、最初から比べると50%ぐらいの労力で設立することができます。

 

ただ診療報酬などが2年に一度のペースで変更されてしまうため、その対応や準備には多少手間取ります。このあたりはほかの医療法人も苦労されていることでしょう。

何より重要な集患、他施設に負けない患者サービス

あとは、患者さんをどのように集めるか。もちろん競合する施設が少ないところに設置しないとこちらとしてはメリットがないので、立地条件は常に気にしています。

 

だから、ほかの病院や施設が開業するという情報はとても気になりますし、空いている場所を探して施設を建てたのに、その近くに同様の施設が建設されたら負けないような「患者サービス」も考えなければいけません。これは、医療分野だけでなく、すべての起業家にとって重要なポイントだと思います。

 

また、介護関連の事業を併せて展開していますから、そちらの分野についての制度や条例、立地条件、スタッフ集めと待遇などについても気を配らなければなりません。

 

収益の面からすると、例えば薬剤がジェネリックで十分だったらそちらを利用すれば、患者さんの薬代の負担も少なく抑えることができます。また、原則月に2回採血を行うのですが、そのデータを見ると、だいたいこの患者さんは人工透析にどれぐらいの頻度と時間が必要かといったことが推測できます。

 

今の医療制度の場合、人工透析では3時間半と4時間では診療報酬が異なります。もちろんその方の体のことが最優先ですから、無理強いするわけではありませんが、この患者さんはちょっと延ばして4時間にしてもらおう、代わりに別のこの患者さんは3時間半に抑えよう、という調整をしていきます。当然ながら月に2回の検査チェックと、各施設院長の治療方針としての判断で行っていただいております。

 

さらに、無駄のないローテーションで限られたベッド数を上手に回すようなシステムを組んでいきます。そうすれば、効率よく多くの患者さんに治療を施すことができるのです。

 

今では千葉県内でそれなりの知名度を獲得していますし、千葉大学ほか、各地の大きな病院との連携も取れています。ただ、より多くの患者さんを治療するためには、施設を建設するための3億円前後の資金がそのつど必要となり、スタッフも必要となります。

 

現時点では、ある程度の施設数を揃えたので、その範囲内でギリギリのやり繰りを維持しながら、なるべくベッドの回転率を高めることによって対応しており、新規の立ち上げについては一時停止の状態を取っています。

 

繰り返しになりますが、何より大切なことは患者さんと職員、そしてその家族を幸せにすることです。経営が安定すれば、職員は安心して働くことができますし、患者さんも安心して通院し続けてくれます。医師という仕事を選んだ以上、この道を踏み外しては敬愛する中山恒明先生にも面目が立ちません。そんなことをいつも胸に抱いて、医療機関の経営を行っています。

ドクター・プレジデント

ドクター・プレジデント

田畑 陽一郎

幻冬舎メディアコンサルティング

医療者である開業医が突き当たる「経営」の壁。 経営者としてはまったくの“素人”からスタートした著者は、透析治療を事業の柱に据えて、卓越した経営センスで法人を成長させていく。 徹底的なマーケティング、2年目で多院展…

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