一代で11の医療・介護施設の開業に成功した医師の軌跡から、事業拡大における極意を見ていく本連載。今回は、その第29回です。

「人工透析患者」というパイは限られているが・・・

普通の経営者なら、物を売る、サービスを提供するなどで事業を展開します。しかし、すでにある同じような物やサービスを提供しても、誰も買ってはくれません。そうすれば、どんなにお金をかけたとしても事業としては失敗です。倒産するしかありません。

 

私たちの場合、まず医療という「技術」を提供しています。これはまず、一つのサービスを提供し、「お客様」である患者さんたちの命を救うという一つの事業です。

 

前述の「ポスドク」のように、医師免許を持ち、医療技術を提供できる人間はたくさんいます。ただ、その人物が勤務先を離れて開業したとき、サービスとして医療技術を「売る」ことができるか。そこが、経営者となれるかどうかの分かれ目です。医療機関は個人の医院から大規模な総合病院までいろいろありますが、規模はどうあれ、トップの人間も経営能力が重要です。

 

しかも、私たちの場合は基本的に人工透析という、医療のなかでもニッチな分野を専門に扱っています。言ってしまえば、医療の中の「隙間産業」に当たるでしょう。

 

人工透析の患者数は全国でも三十数万人ですから、パイは限られています。そこで「ビジネス」として人工透析事業を展開するためには、医療機関として学問的にも力をつけ専門知識もどんどん深め、「あの透析施設に行けば間違いない」と思われるような、確固とした学問的なポジションを獲得することも重要です。

良い印象を持たれれば、人工透析の患者は離れない

また、これも前に述べましたが、風邪や怪我のように、数回の通院で治ってしまうものもあれば、心臓病やがんなどのように、ずっと通院や入院を繰り返し、薬を飲み続け、治療を受け続けなければ生きられない、という病もあります。

 

人工透析は後者に当たりますが、週何度かの長時間の透析治療を行えば、患者さんは普段は通常どおりの生活をすることができます。こうした種類の病気は、きちんと通院さえしてくれれば基本的には死に至らないため、末期がんのように死を待つだけの病と違い、継続的に治療していけるのです。

 

だから、初めて通院されるようになって、「ここなら信用できる」「腕がいい」「サービスが良い」「職員がみんな優しくしてくれる」といった、どこか良い印象を持ってもらえれば、患者さん自身が何らかの事情で引っ越ししたり、ほかの病気を併発して悪化させたりしない限り、人工透析の患者さんは離れていきません。

 

それだけのクオリティを職員みんなで提供することが、安定して患者さんを治療していくためのポイントだと思います。

 

遠方でも噂を聞きつけたり、紹介を受けたりして通院するようになった方がいたら、もっとその方たちのそばに私たちが行き、より人工透析をしやすくしてあげることも、一つの高度なサービスです。だから、こちらから患者さんを迎えに行くつもりで、借金をしてでもなるべくたくさん、いろいろな方面に施設を建築し、急速に「チェーン店化」してきました。

 

大雑把な計算ですが、やはり初開業と同様、1施設の建設には3億円程度かかります。それだけの借金をたびたび繰り返すことになるのは承知のうえで、患者さんたちを「迎えに行く」という使命に駆られ、急速な事業展開を行ってきました。現在、明生会としては7施設、グループとしての関連施設4施設を備え、年間の透析患者数は1000人を超えました。

 

透析施設には次々と異なる患者さんが来るのではなく、新規患者も含めて同じ方々が何度も何度も通ってくれています。そのおかげで現在の医療経営が成り立っているのです。

 

こちらとしては個々の職員がいかに自分の医療責務を果たし、さらに上のステップを目指そうと心がけ、より質の高いサービスを提供するか。この一点に医療機関の経営が集約されていると思います。

 

この話は次回に続きます。

ドクター・プレジデント

ドクター・プレジデント

田畑 陽一郎

幻冬舎メディアコンサルティング

医療者である開業医が突き当たる「経営」の壁。 経営者としてはまったくの“素人”からスタートした著者は、透析治療を事業の柱に据えて、卓越した経営センスで法人を成長させていく。 徹底的なマーケティング、2年目で多院展…

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