白内障手術における「もっとも難しい工程」
レーザー白内障手術を使わず、眼科医の手によって白内障手術を行う場合に、もっとも難しい工程は、前嚢切開です。
水晶体を包んでいる膜である嚢の前側、すなわち前嚢を丸く切りぬき、そこから水晶体を吸い出したのち、眼内レンズを入れます。いわば、レンズの入れ替えをするための「窓」であり、ここがきれいに丸く切れるかどうかが、手術の精度を左右するといっても過言ではありません。
前嚢の厚みはたった数ミクロン(1ミクロンは1000分の1㎜)程度しかありません。したがって前嚢切開は非常に繊細な工程であり、切り口が適切な半径できれいな円形になるように、狭い眼内で針やピンセットのような器具を操作するのは容易なことではありません。
これを眼科医の手で行う手術では、器具を入れるために角膜を切開した状態で行うので、目の中の圧も不安定な環境で行わなければなりません。
これも前嚢切開が難しいことの理由の一つです(なお、フェムトセカンドレーザー白内障手術の場合には角膜に傷を作る前に前嚢切開を行うので、目の中の圧が安定した状態で前嚢切開を行うことができます)。
正確に行うには、高い技術力・集中力が必要
手で行う手術の場合、前嚢切開は、1㎜よりも小さい単位での手先の動きでも結果が変わってしまうほどの、かなりの繊細さが求められるプロセスです。もしここで不具合が生じると、眼内レンズが適切な位置に固定できないリスクが高まってしまいます。
白内障の手術では、まず一番外側の角膜を切ります。角膜を切った瞬間に眼球内部の圧が逃げ、空気の入ったボールに穴をあけた状態と同じで、圧がゼロになります。
そのままでは前嚢切開はできないので、目の圧を上げて前嚢の張力を安定させるために、粘性がある液状の物質(粘弾性物質)を注入するなど、できるだけ安定性を上げる処置を取りながら切開します。
しかしそれでもたった数ミクロンの厚さしかない膜を、目の中という狭い空間の中で、きれいに丸く切るのがいかに難しいか、想像いただけるのではないかと思います。眼科医はその状態で前嚢を切開しなければならないのです。
白内障であること以外で目の状態が良好であれば、過度な心配は不要です。しかし、それでも前嚢切開をいつも正確に行うには、眼科医の高い技術力と高い集中力を要します。