進行すると失明にも至る「細菌性眼内炎」
白内障の手術で起こり得る合併症の中でも、もっとも重篤になる危険性の高いものの一つが細菌性眼内炎です。細菌性眼内炎は文字通り、細菌が目の中に入ることによる感染症で、視力の急激な低下や充血、痛みなどが生じ、進行すると失明に至ることもあります。
どのようなメカニズムで感染に至るのか、すべては明らかになっていないことも多い合併症ですが、いずれにしても手術においては、創口を小さくすることが、感染リスクを下げるもっとも有効な策です。
15~16年前は、白内障の手術の際、角膜の創は5.5㎜程度が標準的でした。かつて白内障手術が日帰りではなく、要入院だったのは、術後の感染を防ぐ目的もあったのです。
しかし現在は折りたたみ式の眼内レンズの登場により、創口の大きさは従来の約半分ですむようになり、私の手術では2.2㎜から2.4㎜ほどの切開で行っています。
創口が小さくなればなるほど、感染リスクを下げられるのは確かですが、今の医学では、眼内レンズを挿入する都合上、これ以上創口を小さくすることは困難です。たとえもっと小さい創口で手術が可能になったとしても、感染リスクはゼロにはなりません。
角膜を切開することで起こり得る「乱視」
正確には乱視は合併症ではありませんが、角膜を切開することで起こり得る変化として重要です。
乱視とはそもそも、角膜の歪みが原因で起こります。正常であれば表面が全方向に均一なカーブを描きます。しかし、そのカーブが不均一な場合には光の屈折異常が生じ、一点に像を結ぶことができなくなります。これが乱視の状態です。
乱視のない正常な目では、角膜を通して目の中に入ってきた光は、網膜の真ん中の一点に焦点を結びます。しかし乱視があると、目の中に入ってきた光が一点で焦点を結ばなくなり、ぼやけて見えたり、二重に見えたりします。これがなぜ乱視のある目は見にくいかという理由です。
白内障の手術では、角膜を切開することでカーブが変わり、乱視となることがあります。創口が大きいほど、結果として強い乱視となります。しかし、現在は原則的には小さな切開で白内障手術を行うため、以前ほど手術による乱視が大きな問題とはならなくなりました。