前回は、白内障手術のプロセスについて取り上げました。今回は、「白内障手術」の難易度が高い理由を説明します。

「0.1㎜単位の精密さ」が求められる手術

白内障手術の切開は、顕微鏡を使用するとはいえ0.1㎜単位の精密さが求められます。また、水晶体を包んでいる嚢は、厚みが数ミクロン(1ミクロンは1000分の1㎜)(㎛)しかない非常に繊細な組織であることから、切開には細心の注意が必要です。使う器具もとても小さく、わずかな手元の狂いも許されません。

 

ミクロン単位での、緻密な作業が必要とされる手術を、失敗なく年間数百も行うということは、例えるなら皿の米粒を一粒ずつ、箸でつまんで別の皿に移し替える、という作業を数百粒連続で、一粒も落とさずに行うようなものです。手が震えたり、疲れから集中力が途切れたりすれば米粒を落としてしまう、ということになります。医師も人間ですが、手術でこのようなことが起これば、手術の結果に影響を与える可能性があります。

 

米粒の例えは少々突飛かもしれませんが、人が手で行う、という点では手術も同様です。どんなに医師の腕が素晴らしくても、一回一回の手術の精度にはわずかなばらつきが出ます。

 

さらに、皿の米粒であればあらかじめ目で見て、箸でつまみやすいものを選ぶこともできるでしょうが、患者さんの治療ではそのようなことはできません。手で行う手術では、実際に切開してみないとわからないことがたくさんあります。患者さんが思っているよりもはるかに、一人ひとりの目の状態は違うのです。医師には、そうした一人ひとりの目の状態を見ながら臨機応変に対応することが求められています。

 

患者さんへの個別の対応を臨機応変に行うには、経験が必要です。私が横浜市立大学医学部眼科学教室にて眼科手術を学び始めた頃、指導医だった先輩の先生から「白内障手術は300件こなしてやっと中級者」だと言われました。この件数は他の外科手術と比べてけた違いの多さです。

高い成功率を裏打ちする、医師たちの努力と経験

私は眼科医になる前、麻酔科医として研修をしました。麻酔科標榜医(ひょうぼうい)という資格も持っています。「標榜」というのは難しい言葉ですが、簡単に言うと「自分は麻酔科医であるという看板をかかげてよい」という国からのお墨付きです。麻酔科医は心臓外科、脳神経外科、消化器外科、産婦人科、形成外科、小児外科、内分泌外科、整形外科など、ありとあらゆる科の手術の麻酔を行います。

 

私は麻酔科在籍時にさまざまな手術の麻酔を行い、日々たくさんの外科医の先生方の手術を見てきました。大きな手術になると一日がかりですので、同じ手術を10件やれば中級者、30件も手術をすればベテランの域に達します。

 

しかし白内障手術では300例こなしても、まだ中級者なのです。全身の大きな手術と、眼科の白内障手術を一概に比較はできませんが、それほど白内障手術はたくさんの経験が必要な手術なのです。

 

他にも眼科と他の科の手術の違いがあります。眼科の手術では、見え方がどれだけ改善したかは患者さんが一番よくわかります。術後の回復も早いため、患者さんは手術後すぐに結果を評価できます。

 

しかしこのことが、患者さんに誤解を招く原因となっています。つまり、多くの人が白内障手術後にすぐによく見えるようになり、そういう人が周囲に何人かいる、というだけで「白内障手術なんて簡単だし、翌日に見えるのが当たり前」という間違った考え方を持たれることがあるのです。

 

緻密な手術を、リスクを最小限に抑えながら、正確に行い、結果を出す―白内障の手術は、1回にかかる時間は短いとはいえ、経験を積んでスキルを磨いていかないと、患者さんの期待に応える結果が出せない手術です。白内障手術を行う眼科医たちのたゆまぬ努力により、現在のような白内障手術の成功率の高さが確立されたのです。

 

この話は次回に続きます。

人生が変わる白内障手術

人生が変わる白内障手術

山﨑 健一朗

幻冬舎メディアコンサルティング

年齢を重ねると誰もが罹患する恐れがある白内障。 白内障手術の技術は近年、たいへんな進歩を遂げています。その代表が「レーザー白内障手術」の登場です。レーザー白内障手術では、白内障手術での「精密で正確な切開」が可…

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