手術で痛みを感じることはほとんどない
現在行われている、標準的な白内障手術のプロセスは次の通りです。
1.麻酔
手術は局所麻酔下で行います。現在ではほとんどの白内障手術が、点眼麻酔で行われています。点眼薬ですので麻酔による痛みはいっさいなく、手術に痛みを感じることもほとんどありません。この麻酔は目の表面の感覚を麻痺させ、切開時等の痛みを感じなくさせるためのもので、手術中の意識ははっきりしています。
白内障手術は眼科手術用顕微鏡を使って行います。目のすぐ前には顕微鏡の光源がありますので、針や手術用の器具が近づいて見えるということはありません。眼球は麻酔の影響を受けないことから動かすことができるため、手術中はできるだけ動かさないよう、光の真ん中だけを見つめるようにします。
なお、手術中は耳が聞こえる状態で会話もできますので、万が一、手術中に気分がすぐれない場合には眼科医に伝えることもできるので安心です。
2.角膜切開
まず目の一番外側にある角膜を切開します。創口の大きさは、私のクリニックでは2.2〜2.4㎜という極小切開で行っています。
3.通常の手術での水晶体前嚢切開
水晶体の周囲は袋のようなものに覆われています。水晶体の表面を覆っている部分を前嚢(ぜんのう)とよび、後ろ側を後嚢(こうのう)とよびます。まず、前嚢の薄い膜を、細い針の針先を曲げた器具や、鑷子(せっし)というピンセットのような器具を使用して、丁寧に約4〜5㎜の半径の円形に切っていきます。この水晶体前嚢切開は眼科医にとって非常に繊細な手技で、白内障手術の工程のなかで最も難しい工程と言えます。
この前嚢切開で作った窓から濁った水晶体を取り除き、そのかわりとして、人工の眼内レンズを挿入します。眼内レンズはこの前嚢切開の縁に沿って固定されます。前嚢切開の完成度が白内障手術の成否を分けるといっても過言ではありません。
進行した白内障や、前嚢の下に癒着がある場合、散瞳(さんどう)(瞳孔の開き具合)が不十分な時などには、きれいな円形を作るのが難しくなります。前嚢は後嚢までつながっているため、場合によっては後嚢破損のリスクもあり、前嚢切開が非常に難しくなります。
切開してから手術終了まで、平均10~15分程度
4.水晶体を超音波で乳化・吸引
前嚢を切り取った部分から超音波をかけて、水晶体を細かくします。「乳化」という表現はわかりにくいのですが、液体にするのではなく、小さな粒になるまで細かく砕く、と表現したほうが近いでしょう。
水晶体を超音波で細かい破片に砕くと同時に、その破片を吸引します。乳化と吸引は同じ装置で行います。水晶体の破砕は超音波だけで行うのではなく、チョッパーという小さな金属製の器械で割りながら行います。
そのときに水晶体の前嚢、後嚢は傷つけないようにして残します。
5.眼内レンズの挿入
残した水晶体嚢の中に眼内レンズを入れます。レンズの大きさは直径6㎜ほどで、レンズを固定する脚が2本ついており、全長は13㎜ほどあります。これを、インジェクターと呼ばれる筒の中に小さく丸めて入れ、約2.4㎜の創口から挿入します。水晶体嚢の中に眼内レンズが入ったことを確認します。丸めた眼内レンズは目の中で自然に開きます。
切開してから終了まで、かかる時間は、特に問題がなければ平均10〜15分程度です。