最大のメリットは「売り手優位」となる点
本連載では「オークション」(入札)による不動産売却について話していきます。相対取引では、宅建業者が探してきた「1人の買手」を相手に、「ベースとなる金額(たいていは相場価格)」をもとに交渉をします。そのため、宅建業者の思惑や買手優位の法則が働いて、売手の不利な取引になりがちであるというお話をしました。
これに対してオークションは、「複数の購入希望者」を相手に、目標金額を設定せずスタートします。購入希望者が本気で欲しいなら、確実に落札できる金額を提示するしかありません。簡単にいえば、売主は「売ってほしければ、高い値段で買ってね」と言っているようなもので、強気のオークションができるのです。”売り手優位である”という点が、不動産オークションにおける最大のメリットです。
実際に私が手掛けた例でいうと、後の事例でも紹介しますが、大手宅建業者が3億5000万円と査定していた物件がオークションで7億円超の値段で売れたケースがあります。実に2倍以上に跳ね上がったのです。もちろん当該物件が条件的に恵まれていたので、目を見張るような結果が出せたわけですが、どちらにしても相対取引では決して実現しない価格でした。
私は不動産オークションを始めて15年になりますが、オークション形式で売却した物件は、ほぼ例外なく相場価格より高値で売れています。売主が自分で複数の大手宅建業者の価格査定を取り受けてきた物件を何度か入札方式で売りましたが、全て査定価格より高く売却できています。
その実績や経験から断言できることは、「オークションこそ不動産を最高値で売却するベストな方法である」ということです。
「入札条件」を最初に決めることで減額を回避
相対取引では、売主と買主が揃った時点から、どのような条件で売却するかの交渉が始まります。あらかじめ売主が「こういう条件で」と決めていたとしても、買主が拒否すれば妥協点を探ることになります。そのため、価格を含めて様々なことが、売主の希望ラインからずるずると引き下がっていってしまう傾向にあります。
それに比べて、オークションは最初に売主が入札条件を決めてしまいます。「この物件については、こういう条件で売却します。それで良ければ入札してください」というスタンスです。こうすると、そもそも提示された条件を飲める人しか入札してこないので、交渉によって条件や金額が下がってしまうことを避けられます。
また、オークションは複数の購入希望者が一番高い金額を競っていますから、自動的に高値になります。業者に足元を見られて買い叩かれる心配はありません。オークションにあたって「何千万円以上から入札スタート」というような目安はこちらからは提示しません。目安を提示しないのは、提示すると提示額近くに入札価格が集中する可能性があり、入札価格の上振れを妨げることになるからです。
応募してくる側も不動産のプロなので、各自でそれなりの指標をもっており、だいたいの市場価値は見極めてきますが「それよりいくらプラスすれば競り落とせるか」という発想から始まるので、減額方向に動きようがないのです。
さらにいえば、最終的に売却するか・しないかの決定権も売主が握っています。仮に応募してきた入札金額が気に入らないなどの問題があれば、入札不調とし売却しないことさえ可能です。入札要綱にそのことを明記してスタートすれば問題にはなりません。
これだけ”売主優位”のカードが揃っているので、終始、売主の希望に沿った売却がしていけるのです。