今回は、二次相続を見越した「不動産管理会社の設立」の事例を見ていきます。※本連載では、相続診断協会の編書、『笑顔で相続をむかえた家族 50の秘密』(日本法令)から一部を抜粋し、「争族」を避け、「笑顔相続」を実現させるポイントを解説していきます。

13年前、母と息子3人で父の資産を相続したが・・・

<家系図>

 

<主な財産状況>

●自宅(土地建物) 3,300万円

●賃貸物件①    1,500万円

●賃貸物件②    1,000万円

●賃貸物件③    1,100万円

●預貯金      4,000万円

●有価証券     1,500万円

●自社株      2,000万円

●生命保険     1,700万円

   合計     1億6,100万円


13年前に父親が亡くなった際、自宅土地建物や賃貸物件等を母親と長男・次男・三男が相続しました。

 

三つの賃貸物件の持ち分は、母親は土地についてそれぞれ2分の1、建物は100%となっています。 兄弟の持ち分は、賃貸物件①の土地が長男2分の1、②の土地が次男2分の1、③の土地が三男2分の1となっています。

 

父親が創業した建設会社A社は現在、次男が承継しており、賃貸物件はA社が管理しています。

 

今回、母親が亡くなって二次相続が発生した場合の建物管理に不安を感じた母親が、物件の管理及び相続対策の相談のために筆者のもとを訪れました。 

不動産管理会社を設立し、不動産収入を母親から移転

筆者が提案したのは、「賃貸物件を管理する不動産管理会社の設立」です。

 

土地は母親と兄弟が個人で所有し、建物を管理会社に移転するという案。しかし、賃貸物件の総収入は年間約640万円で、会社として運営するには収益のわりに経費が高く、長期的にみると非効率です。 

 

そこで、兄弟個人の出資で条件の良い土地を購入し、管理会社の資金で新規に戸建賃貸住宅3棟を建築しました。建築費用は母親から無利子で管理会社に貸付けを行います。

 

住宅の賃貸収入で、管理会社の収益を増やす計画です。

 

アパートではなく、3棟の戸建賃貸住宅で他の賃貸物件との差別化を図ることと、A社で施工することで建築費を抑えられるというメリットもありました。

 

戸建賃貸の予想収益は320万円、賃貸物件①~③と併せて、収益は約1000万円。これで持続的に管理会社を運営することができるとして、この計画を家族同意のもと実行に移しました。

 

実行の順序として、まず管理会社を資本金1000万円以下で設立(実際は母親870万円、兄弟それぞれ10万円ずつ出資して計900万円)、合同会社で管理会社を設立しました。

 

次に、母親が持つ賃貸物件①~③の建物の所有権を管理会社に売却します。所轄税務署に相談したところ、建物の売買価格は建物簿価残額としてよいとの回答を得ました。当初、固定資産税評価額での売買を考えていましたが、より少額での売買が実現できました。

 

このことは相続対策上、非常に有益です。賃貸物件建物はすべて築年数が30年を超えるものだったため、簿価残額はほんのわずかでした。ただし、税務署によっては簿価による評価が認められない場合もあり得ますので、確認が必要です(特に大都市圏)。

 

以上の方法で、賃貸物件の収益は母親から管理会社に移転しました。兄弟に管理会社から地代を払うことで、収入の移転と管理会社の収益確保が達成できました。物件の修繕・補修費用や経費も管理会社から捻出します。

 

さらにこの時点で、各物件入居者の賃貸借契約を母親から管理会社に移行しなければならないのですが、この際にも注意が必要です。

 

賃貸借契約時に土地に抵当権がある場合、土地所有者が土地を手放した際に、新しい取得者の求めがあれば、賃借人が6か月以内の退去を迫られる可能性があるのです。契約の時点で抵当権がない場合、上記の立退きは認められません。賃借人とスムーズに変更賃貸契約を結ぶため、担保設定は賃貸借契約の変更後にすると賃借人の同意を得やすいでしょう。

 

次に行った対策は、管理会社の株式を母親から兄弟に贈与することです。今回のケースでは母親からの建築費の借入れといったマイナスの資産(=債務)と、賃貸物件、戸建物件の帳簿上の評価額や現預金といったプラスの資産を比べ、その差額から管理会社の総資産はマイナス、つまり債務超過となりました。この場合、株式の評価額は0円です。つまり、870万円の株式を無税で贈与することが可能なのです。

 

最後に、母親から管理会社への無利子融資は、相続の際に相続財産に含むという判断が下される恐れがあります。そのため、銀行から賃貸物件土地を担保に建築費相当額を借り入れ、母親に返済しました。

 

以上で今回の目的であった不動産管理会社への収益物件の移転が完了しました。

 

賃貸物件①~③の賃料はまちまちでしたが、管理会社を介することで兄弟に公平に収益を分配できるのも大きな利点です。

笑顔相続の秘密

本事案は、相続人の子供3人で複数の不動産を保有し、事業承継も絡む二次相続のケースです。

 

一次相続(父親の死亡)の際に、父親の事業は次男が引き継ぎ、各賃貸物件は母親と子供でバランスよく分割するなど、大筋ではよくできていたようです。しかし、さまざまなの状況変化により、会社を継いだ次男にすべての不動産の管理を任せることに対するアンバランスが、相続相談に至った原因です。

 

このように、一度考えた相続対策を家族の環境の変化、時代の流れ等で見直すことは、とても大切です。実際に本事案では、母親からの相談により、子供たちとの話合いが進み、同じゴールに向かって、相続診断士とともに丁寧に対策が施されています。

 

笑顔相続の秘密は、相続の一時点での公平性だけではなく、その後に発生する収益や費用も考慮したうえでの公正性を保つために、相続人全員で対策を推進したところにあります。

 

松川 直弘(まつかわ・なおひろ)

相続診断士、一級建築士、南海建設株式会社 代表取締役

昭和47年10月24日、香川県生まれ。熊本工業大学建築学科卒業。

総合建設業歴23年。

本連載は、2017年12月5日刊行の書籍『笑顔で相続をむかえた家族 50の秘密』(日本法令)から抜粋したものです。その後の税制改正等、最新の内容には対応していない可能性もございますので、あらかじめご了承ください。

笑顔で相続をむかえた家族 50の秘密

笑顔で相続をむかえた家族 50の秘密

編者:一般社団法人 相続診断協会

日本法令

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