相続財産の多くを「不動産」が占める場合の相続対策とは?

今回は、相続財産の多くを「不動産」が占める場合の相続対策について見ていきます。※本連載では、相続診断協会の編書、『笑顔で相続をむかえた家族 50の秘密』(日本法令)から一部を抜粋し、「争族」を避け、「笑顔相続」を実現させるポイントを解説していきます。

多数の不動産に発生する「相続税の支払い」が心配

<家系図>

 

<主な財産状況>

●自宅不動産(一戸建て) 6,000万円

●都市近郊農地      2,000万円

●賃貸マンション2棟    1億円

●貸土地         5,000万円

●預貯金         1,000万円

   合計        2億4,000万円

 

「父が高齢で、現金が少なく不動産が多いために相続税の支払いが不安です。家族が相続で揉めないかも心配」という相談を長女から受けました。

 

家族構成は、両親と長女、次女の4人家族。両親と長女は自宅で同居、次女は他家に嫁いでいます。

 

所有不動産は、自宅、都市近郊農地、賃貸マンション2棟、貸土地で、預貯金は1000万円程度でした。

 

筆者は、父親と面談することとしました。当初父親は、「相続のことはちゃんと考えてあるので、長女や専門家に心配してもらわなくても大丈夫」という意見でした。

 

筆者は、遺産分割で揉めて家族仲が悪くなったケース、遺言書の記載方法や内容に不備があり無効となったケース、急に認知症になり相続対策がまったくできなくなったケース等、第三者の相続対策失敗例をいくつか紹介しました。そのうえで、「本当にご家族が幸せになれる対策になっていますか? ご家族の想いを反映していない相続対策ですと、かえって揉めることが多いのです。仲の良いご家族が揉めることなく、全員が納得できる幸せな相続を実現するためには、家族みんなで相続対策に取り組むことが何より大切なのです」と気持ちを込めて話しました。時間はかかりましたが、最終的に父親から「相続で揉めることだけはないようにしたいので、家族みんなで相続について話し合ってみる」と言ってもらえました。

 

財産診断や相続税診断などを行い、家族全員で共有

次のステップとして行ったことは、家族全員のヒアリングです。お互いの相続に対する想いや心配事等を確認することは、相続対策の方向性について家族全員の合意を形成するために重要なプロセスとなります。

 

筆者が司会役となり、父親から順番に本音の気持ちを聞いていきます。家族の想いを集約すると、農地以外の不動産はできるだけ売却しない、相続で揉めないように遺産分割方法を決めておく、相続後の生活を安定させる対策を考えておく、二次相続も考慮する―ということになりました。

 

次に、資産の現状を把握するために、所有不動産の調査を行いました。

 

都市近郊農地は、固定資産税が農地並み課税となる生産緑地地区の指定を受け、父親が亡くなるまで農業経営を行うことを条件に、農地の納税猶予の特例を利用しているため、父親の生前は農地を売却することができません。農地の時価は約2000万円でした。

 

提携先の税理士に依頼して、相続税評価額と相続税額を算出しました。相続対策を何もしない場合の相続税額は約1600万円でしたが、農地の売却で納税資金は十分賄える見通しです。

 

続いて、財産の収益性を分析し、残しておく優良資産と処分する不良資産を判断するために、財産診断を実施しました。貸土地は、収益性が悪いうえ、土地面積が広く相続税評価額が高額でしたので、売却して優良資産に組替えが必要な状況でした。

 

再び、家族全員に集まってもらい、パートナーの税理士とともに財産診断及び相続税計算結果の説明会を行いました。前回のヒアリングでは、それぞれの相続に対する想いを共有し、今回の説明会では資産の現状と納税すべき金額を家族全員で共有しました。

 

これで下ごしらえが整いましたので、筆者から家族の相続に対する想いを反映した、以下の相続対策を提案し、全員から賛同を得ました。

 

●納税資金は農地を売却して確保するため、売却しやすいように提携先の土地家屋調査士に依頼して、土地境界を確定する。

●節税と収益向上の両立を目指して、収益性が低い貸土地を売却し、利回りが良く相続税評価が低い賃貸マンションに買い替える。

 

また、それぞれの生活設計も考慮しながら、遺産分割方法を決定しました。家族全員で財産の取得方法を話し合うと感情的に対立しやすいため、個別に各自の意見を聞いたうえで、家族会議で遺産分割案を提案しました。その結果、自宅は母親、賃貸マンションは母親と姉妹が1棟ずつ取得することに決まりましたので、提携先の司法書士に依頼して、公正証書遺言を作成しました。

 

なお、二次相続対策には、賃貸マンションの収益をプールしておくこととしました。

 

相続対策実行後、約1090万円の節税を達成。優良資産に組み換えた結果、収益物件の収入が増え、夫婦で旅行を楽しむ余裕もできました。賃貸マンションを母親と姉妹がそれぞれ1棟ずつ取得する予定ですので、生活設計も安心です。

 

遺言書には、付言事項として父親から遺された家族への感謝の気持ちとともに、姉妹が仲良くお互い助け合うように、という想いも記しました。

 

専門家が間に入ることで、お互いの感情をオブラートに包むことができ、和やかな雰囲気の中、家族みんなで相続対策に取り組むことができました。

笑顔相続の秘密

本事案は、相続人が妻、娘2人、相続財産に不動産が多く、揉めない対策と節税対策をしたい希望のある家族のケースです。

 

まず、父親の「相続のことはちゃんと考えてあるので、長女や専門家に心配してもらわなくても大丈夫」という壁。相続の現場で非常に多いのが、この壁です。この壁を乗り越えられずに相続をむかえてしまい、大変なトラブルとなってしまう家族も少なくありません。

 

父親が相続のことをきちんと考えてくれていることは素晴らしいことなのですが、家族や専門家に相談していないことが大問題なのです。なぜなら、相続は父親1人の問題ではなく、家族の問題だからです。

 

実際、相続診断士も父親に「家族全員が納得できる相続を実現するためには、家族みんなで相続対策に取り組むことが大事」と伝え、理解を得ています。「相続は家族の問題」ということを認識してもらうことが、笑顔相続の秘密です。

 

小林 悟(こばやし・さとる)

相続診断士、公認不動産コンサルティングマスター、相続対策専門士、宅地建物取引士、株式会社スマート・ホーム 代表取締役

昭和47年、京都府生まれ。龍谷大学法学部卒業。

不動産会社に20年間勤務し、相続対策を始めとする不動産コンサルティング業務及び不動産業全般に従事する。平成26年に独立。

一般社団法人 相続診断協会 

日本から「争族」をなくし、「笑顔相続」を広めることが「相続診断士」のミッションです。笑顔相続を広めるためには、生前に想いを残し伝えることが大切であると考え、その有効な方法としてエンディングノートの作成を推奨しています。
相続診断士の役割は、相談者に寄り添い、想いを聞き、問題点を明確にすることです。節税対策や遺産分割対策・遺言書の作成などは、税理士・弁護士・司法書士・行政書士などの士業と連携をして、最適なソリューションを提供します。
相続診断協会は、相続診断士とともに「想いを残す文化を創ります」。

写真は、代表理事の小川実氏。

著者紹介

連載エピソードに学ぶ「争族」を回避して「笑顔相続」を実現させるポイント

 

本連載は、2017年12月5日刊行の書籍『笑顔で相続をむかえた家族 50の秘密』(日本法令)から抜粋したものです。その後の税制改正等、最新の内容には対応していない可能性もございますので、あらかじめご了承ください。

 

笑顔で相続をむかえた家族 50の秘密

笑顔で相続をむかえた家族 50の秘密

編者:一般社団法人 相続診断協会

日本法令

相続とそれに伴う遺産分割や事業承継の場面で起こってしまう家族間の争い…本書ではそんな「争族」を避け、「笑顔相続」を実現させるための知識をご紹介。 遺言、生前贈与、信託、養子縁組、事業承継対策、相続税節税対策など…

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