相続放棄の選択後、保険会社から保険金の振り込みが・・・
<家系図>
<主な財産状況>
●会社連帯保証債務 ▲2億1,000万円
●預貯金 700万円
合計 ▲2億300万円
これは筆者自身の体験談です。
筆者の父親はもともと会社員で、千葉県内に家庭を持ち、筆者を含む3人の兄弟を養っていました。
昭和59年4月に、資産家であった祖母が逝去しました。父親はその不動産を引き継ぎ、管理会社を設立するために脱サラし、郷里・沖縄に単身赴任。家族のいる千葉と事業を経営する沖縄とを往復する生活を続けていました。
しかし、父親は会社経営については素人同然であり、またバブル崩壊の影響も受けて、徐々に経営は苦しくなっていきます。最終的には債務超過に陥り、不動産の大半を手放して、事務所ビルで生活するまでになっていました。
平成11年6月、父親は病気のため急逝。結果、多額の借金が未返済のまま残されることとなりました。財産を調べてみたところ、多少の資産もあるにはありましたが、借金のほうがはるかに大きく、とても母親1人で肩代わりできるレベルではありませんでした。
親戚の弁護士に相談したところ、「相続の放棄をすべき」というアドバイスをもらいました。相続は「親から財産を引き継ぐ」だけでなく、「借金を引き継がなくてよい」という選択肢もあることを、その時に初めて知りました。
母親は相続放棄を選択。「残るものはないけど、ゼロからの再出発だね」と、前向きに捉えていたようでした。父親の死後、葬儀や各種手続きでバタバタしていた矢先に、生命保険会社から数千万円の死亡保険金が振り込まれました。
相続放棄をしたのに生命保険金は受け取れるのかと、親戚の弁護士に相談すると「保険金は受取人固有の財産であって、相続とは別に扱うもの。きちんと受け取るべきだ」と教えてもらいました。
父親という大黒柱を失って、母親は精神的にも経済的にもとても困っていましたが、生命保険金のおかげで当面の生活費は心配がなくなりました。
生前、父親は、生活が苦しくなっても保険料の支払いだけはきちんと行っていたということです。決して少なくない額であったはずなのに、いったいどのような思いで毎月の支払いをしていたのでしょうか。
今となっては確かめようもないのですが、多額の生命保険金は、まさしく亡父からの最後の贈り物だったと思います。
借金の相続による相続放棄が生命保険で救われたことは、相続診断士となるきっかけにもなりました。改めて亡父に感謝したいと思います。
笑顔相続の秘密
中小企業の社長や個人事業主は、借金があったり、会社の借金の連帯保証人になっていたりするものです。
事業は好不況があり、良い時もあれば、悪い時もあります。プラスの財産よりもマイナスの財産が多い場合には、相続放棄という選択肢もありますが、住む家も失ってしまう可能性もあります。
中小企業の社長や個人事業主は、常に借入金の残高や連帯保証している金額を確認し、自分に万が一のことがあったとしても、家族が困らないような備えをしておくことが大切です。
事業が好調な時は、配偶者にも給料を出せるような仕組みを作ったり、配偶者名義の財産を増やしていくことも一つの方法です。
生命保険は、相続放棄をしても家族が受け取ることができますので、絶対に解約をしてはいけません。
本事案は、親として夫として素晴らしい選択をされたと思います。
照屋 壮仁(てるや・たけひと)
相続診断士、シニアライフコンサルタント
昭和43年6月28日、千葉県生まれ。千葉大学法経学部卒業。
平成27年1月よりメットライフ生命保険株式会社勤務を経て、平成29年8月より㈱FLI 千葉支店勤務。