ベテラン社員が「自分を極め、自信を持っている」か?
では「会社発展曼陀羅」(連載第1回参照)の上半分、発展界にある会社、つまり今後もどんどん伸びていく会社とは、どんな会社なのか。
それは、なんといってもベテランの社員になればなるほど自分を極めて自信をもち、社員たちが安心して働いている、そんな会社だろう。とくに中小企業では、これは絶対条件だ。
ベテラン社員になればなるほど日々努力をしているということは、努力がそのまま会社の業績アップにつながり、その努力が会社から正当に評価されているということだ。だからベテラン社員は、常に自分で考え、自分の責任で行動し、結果を残していける。
結果が正当に評価されているからこそ、さらに会社の業務を改善したり、会社の在り方を改革しようとするだろう。
ベテラン社員が「会社への愛」を語る会社は伸びる
もっといえば社員がベテランになればなるほどストレートに会社への「愛」を語るようになったら、それは、間違いなく今後も伸びていく会社だ。この場合の「愛」とは、他力本願の社員が吐く会社への不満の対極にあるものだ。
私が18歳から22歳までお世話になった会社は、利益こそたくさん出していたが、社員たちがけっして「発展界」にあった会社とは言いがたい。しかし、そこで出会った先輩・Hさんは少なくとも営業という仕事への「愛」は十分すぎるほどもっている「発展界」の人だった。
私がHさんの下で営業について学びはじめたとき、Hさんが最初に教えてくれたのは客を初めて訪ねたときのお辞儀の仕方だった。
「まず店の前にいったら看板に向かって腰を90度折ってお辞儀しろ。そして店に入ったらまた同じようにお辞儀だ。そして相手の顔を見て、またお辞儀。帰るときも同じだ」
ここまでやらなければいけないのかと、新米の私は驚いたが、Hさんは至極真面目で客を訪ねるたびに、この90度のお辞儀を私にもさせるのだった。Hさんの生真面目な表情からは、営業という仕事に常に真剣に打ち込んでいるHさんの気持ちが、ストレートに伝わってきた。
いまになって思うと、Hさんはまだ20歳を超えたばかりの新米営業マンだった私に仕事への「愛」、会社への「愛」を伝えたかったのだろう。いまでも私は心底、感謝してやまない。
こうしたHさんのようなベテラン社員がいれば、新入社員は安心してついていける。新人の時代に厳しく且つ愛をもって指導してくれるような先輩に出会えるかどうかで、その後の会社員としてのキャリアはまったく違ってくる。
私を厳しく指導してくれたHさんは、私に厳しいだけでなく自分にも厳しい人だった。だから尊敬できたし、その背中を見ながら、迷わずついていけた。そういった面では、私は非常に恵まれたといっていい。
最初についた先輩社員が、幹部や同僚への批判はするが、自分は率先して問題を解決しない人だった。責任はすべて他人に押しつけ、自分には甘い。そんな先輩社員が会社内に野放しになっていると、そうした気風はまっしろの生地に染料が染みこむように、あっという間に新入社員にも伝染する。
「他人の批判はいくらでもするが、自分で責任はとらない」
こういう働き方がいかに危険かについては、これから本連載で繰り返し説明するが、社会に出たての新入社員には、それがわからない。だから周りの先輩たちが、こういう会社の中でこういう生き方をしていれば、そういうものだと思い込んでしまう。
もし最初についた先輩が、他力本願の社員であったなら、いまの私はないだろう。