成績の上がらない先輩が「数字をこっちへ回せ」と・・・
前回の続きである。
この派閥こそが他力本願体質を生む元凶なのだ。全社員が100人にも満たないような中小企業では、社内が2つの派閥に分かれ、互いに足の引っ張り合いをしていることがままある。
私がはじめて派閥というものを知ったのは、20歳を超えて営業職でバリバリ働きだしてからだった。私の直属の上司になった主任のHさんは、営業マンの鏡のような人で、社内でメキメキと頭角を現し、古参の社員を飛び越えて課長、部長、名古屋支店長まで出世していった。Hさんは社内で必要と思われることはつぎつぎと実行していった。会社の業績もうなぎ上りだ。私もHさんの薫陶よろしく営業でトップをとるようになった。
こうなると古参社員たちはおもしろくない。なにしろいままで年功序列に乗っかって部長だ、課長だと威張っていた人たちが、つぎの日から机も変われば座る場所も変わる。つぎつぎと窓際に追いやられていくわけだ。そこでこうした「負け組」が大っぴらに徒党を組み派閥ができることになる。負け組の派閥から聞こえてくるのは、Hさんへの批判と、Hさんの手腕をかっている社長への不満ばかりだ。このころから実力主義社会の波が押し寄せてきた。
こうなるとHさんの周りにも勝ち馬に乗りたい社員が集まってきて派閥ができる。そしてその気がなくても、当然私はHさんの派閥と見られてしまう。すると成績の上がらない同期の社員や先輩社員がやってきては、こういうのだ。
「それ以上、成績をあげても仕方ないだろう。数字をこっちへ回せ」
そのころ私は2年続けて営業でトップ賞をもらうほど営業力をつけていたので、たしかにノルマは早々に達成してはいたが、かといって大学卒で私より高い給料をもらっている同期の社員に自分の数字をやる理由はない。しかし月末がくる度に彼らの圧力に苦しめられた。そこでHさんに相談するとこう説得された。
「社員というのは会社の歯車のようなものだ。君のような優秀な社員には、どんどん成績を上げて、その数字をみなに回してもらわないと困るんだ」
その言葉を聞いたとき私は、会社員なんてやってられんなーと心底思った。
症状が進めば「派閥の理屈」が絶対化されることに
会社にとって害があるばかりの派閥がなぜ生まれるかといえば、会社という組織に乗っかって仕事をしているだけという不安が社員のなかにあるからだ。自分自身では何も考えられないし判断できない、責任もとれないという劣等感もある。
こうした不安や劣等感が常に心のなかにあるから、何か自分に不利なことが起きそうになると、自分以外のだれかのせいにしたがる。その共通の「だれか」を槍玉に挙げることで結びつくのが「派閥」だ。
派閥には、そのなかでしか通用しない「理屈」がある。派閥の外から見れば、それは理屈でも何でもなく、ただの甘え合いであったり、慰め合いであったりするのだが、派閥のなかにいるとそれが見えなくなる。ここから堕落がはじまる。
さらに症状が進むと派閥の理屈が絶対化されていくようになる。こうなると何のために会社にいて、何のために働いているのかがわからなくなる。人事も派閥が認めないと機能しなくなるし、営業方針や製品開発にまで派閥が介入するようになってくる。
すべてがマイナス発想になり、会社の組織は硬直化、社内は変化を好まないぬるま湯のような雰囲気になる。まさにこれが倒産にまで至る「堕落界」に堕ちた会社の姿だ。