「店長平均年齢28.8歳」が意味するもの
いまや日本でもトップクラスの巨大スーパーマーケットに成長したI社がまだU社という名前で東海地方に100店ほどスーパーを展開していたころの話だ。
私は一人の店長と知り合った。私より3つほど年上の彼は、店長になったばかりで、自慢げに給与明細を見せてくれた。そこにはさまざま手当が細かく記載されていた。中小企業に勤めた経験しかない私にとって詳細な給与明細そのものがおもしろかったので、なめるようにチェックしたのだ。
そのうち私は奇妙なものを見つけた。店長平均年齢28.8歳という数字だ。店長手当の横に、この数字がならべるように表記してあるのだ。思わず私は彼に改めて年齢を聞いてみた。33歳と8カ月だという。店長の平均年齢を5歳も上回っている。
私はそのとき心の底から「大企業というのは怖いものだな」と思った。彼は店長になれたことがうれしくて、まったく気にしてなかったが、店長手当の横に記載された28.8歳という数字は、私には「この先の出世はないから、そのあとのことを考えなさい」という会社からの宣告にしか思えなかった。
当時U社には店舗が100店ほどあった。だが給与の等級が店長に該当する社員は200人以上いた。店舗の展開が店長候補者の増加についていけない状況だったのだ。そこでU社がしたことは「窓際族」づくりだった。
若い店長を就けることで古参の店長は等級は変わらずとも立場を追われた。役職に就けたものはまだよかった。だが、大半は各店舗のバックヤードに送り込まれ、そこで商品整理をさせられたり、店舗や倉庫の周辺の草取りをさせられたりした。
それまで各店舗で店長としてすべてを取り仕切ってきたものが、バックヤードでの商品整理や草取りの日々だ。それまでのプライドはズタズタにされ、辞めていくものも多かった。
3歳年上の店長に繰り返し「独立」を勧めたが・・・
しかしそれでも辞めない、辞められないのが、ほとんどの日本のサラリーマンの現実だ。自分の未来はすべて会社に握られ、そこには自分の希望も夢も入り込む余地がない。自分の努力はほとんど評価されず、上からの一言でどこに飛ばされるかわからない。これが他力本願の世界でなくて何だろうか。
給与明細を見せてくれた店長に私は、口が酸っぱくなるほど繰り返し独立を勧めた。平均より5年も遅れてようやく店長になれた彼に、その先の出世は叶わないだろうと思ったからだ。夜鳴き蕎麦の屋台でもいいから、とにかく一人ではじめられる商売をやれと勧めたが、彼は耳を貸さなかった。
その後彼は、運良く別の部署での役職を与えられ、とりあえずバックヤード行きを免れた。だが、知識の乏しい部署での仕事では何の能力も発揮できず、40歳を前に退職を余儀なくされた。退職後、彼は当時ブームになっていた健康食品の店を開いたが、店長時代の過労から健康を損ない、あっけなく他界した。