前回は、大企業特有の恐ろしさを先輩の給与明細の中に垣間見た、著者の経験談を紹介しました。今回は、中小企業の経営を揺るがしかねない「他力本願社員」の存在について考察します。

大企業にとって「他力本願社員」の存在は必要悪!?

大企業にとって、私の知り合った大手スーパーの店長のように、自分の人生を丸ごと預けてくれるような社員はある種の理想像だ。従業員数が1000人を超えるような大企業は、会社のシステムに疑義をとなえず、いわれた通りに業務をこなしていくこうした「他力本願」を是とする社員の存在なしには成り立たない。まさに大企業にとって他力本願は必要悪なのだ。

 

大企業の経営者の本音、それは「個人の生きがいや夢といったものは、仕事とは別の場所で実現してほしい。けっして会社に持ち込んでほしくない。それだけの給料も払っているし休暇もとれるようになっているはずだ」といったところだろう。

 

大企業の社員のなかには「二足の草鞋」と称して本業とは別に芸術の分野などで名前を売っている人も少なくない。最近では災害の度にボランティアが集まってあと片付けに汗を流す光景は珍しくない。こうしたボランティアを担っているのは、大企業の社員たちだ。

 

今後は、これまで原則として禁止されていた副業が解禁され、本業に支障のない範囲で商売をしたり起業したりすることも許される方向に進むと考えられている。

 

これらはすべて仕事の中で自己実現することが極めて難しい大企業の他力本願体質を補完するための措置にほかならない。

中小企業では「他力本願社員の許容」=業績ダウンに・・・

しかしこのように、必要悪として他力本願体質の社員が許容されるのは、大企業だからである。社員が100人にも満たないような中小企業が「他力本願」の社員を許容することは、ときとして会社の消滅にもつながりかねない危険な行為である。

 

中小企業の多くは会社のシステムが脆弱であり、会社の業績は経営者のカリスマ性や社員のやる気に依存している場合がほとんどだ。したがって、いわれたことしかやらない、あるいは、いわれたこと以外できない他力本願の社員の存在は、会社の業績ダウンに直結する。そしてここが怖いところなのだが、他力本願体質は感染するのだ。

 

高校を卒業して私がはじめて就職したのは全国規模のIという時計・宝石の卸販売会社だった。私は当時、愛知県の東部に位置する豊川に住んでおり、電車で2時間近くかけて通勤していたため、先輩たちからの飲み会や麻雀の誘いを断ることが多かった。だから最初は知らなかったのだが、中小企業にも派閥があり、飲み会や麻雀はそうした派閥の温床だったのだ。私の同期の新入社員たちは、先輩たちの誘いを断ることができるはずもなく、いつしか派閥に取りこまれていった。

中小企業の経営極意 裏と表とそのあいだ

中小企業の経営極意 裏と表とそのあいだ

井指 好康

幻冬舎メディアコンサルティング

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