今回は、会社の一事業部のみを売却する際のスキームとして「会社分割」と「事業譲渡」を比較しきます。※本連載では、島津会計税理士法人東京事務所長、事業承継コンサルティング株式会社代表取締役で、公認会計士/税理士として活躍する岸田康雄氏が、中小企業経営者のための「親族外」事業承継の進め方を説明します。

税負担を比較すると「会社分割後の株式譲渡」が有利

(1)会社分割と事業譲渡の比較

対象会社の全部を売却するのではなく、一部の事業部門のみ売却する場合、事業譲渡を行う方法と、会社分割後に子会社の売却を行う方法がある。税務上の取扱いが大きく異なることから、両者を比較して検討する必要がある。

 

事業譲渡は、譲渡対価が現金であり、引継ぐ資産および負債の評価は時価となる。また、不動産取得税・登録免許税・消費税の課税対象となる。事業譲渡は限定された範囲の事業を譲渡していることから、権利義務が包括的に移転しないため、各債権者の個別の同意が必要となる。

 

これに対して、会社分割は組織再編の手法であり、分離させた事業の対価は原則として株式である。権利義務は包括的に新会社へ移転されるため、各債権者の同意は不要であるが、債権者保護手続が必要である。

 

会社分割で発行された株式をすぐに譲渡する場合、税務上は非適格組織再編となり、会社分割のタイミングにおいて資産および負債は時価評価される。しかし、会社分割によれば、消費税は不課税であり、不動産取得税や登録免許税は軽減される。

 

以上のように、税負担を比較すると事業譲渡よりも会社分割後の株式譲渡が有利に取り扱われる局面が多い。

不要な事業は、事前に不要事業を会社分割で切り離す

(2)会社分割の4つのパターン

会社分割には、承継会社が既存か新設か、また、交付される対価の受取先がどこかによって4つのパターンに大別される。

 

一つは新設分割であり、分割した事業で新しい会社を設立する方法である。会社の子会社として新設する方法(分社型新設分割)と、会社の株主を介した兄弟会社として新設する方法(分割型新設分割)がある。

 

もう一つは吸収分割であり、既に存在する別の会社に事業を分割する方法である。こちらも同様に、子会社に対して分割する方法(分社型吸収分割)と、兄弟会社に対して分割する方法(分割型吸収分割)がある。

 

分社型分割の後で株式譲渡を行えば、譲渡対価は株主ではなく分割会社が受け取ることになる。それゆえ、株主に対価を受け取らせるには、分割会社の剰余金の分配を行わなくてはならない。これに対して、分割型分割の後で株式譲渡を行えば、譲渡対価は分割会社ではなく株主が受け取ることになる。

 

株式譲渡は、対象会社の全ての事業を買い手に移転する取引スキームであるため、買い手が一部の事業のみの買収を希望していたり、不要な事業が一部含まれたりしている場合には、買い手が買収後に改めて不要な部分を処分しなければならない。

 

そこで、不要な事業がある場合には、事前に不要の事業を会社分割で切り離しておくか、反対に必要な事業のほうを会社分割で切り離しておくのである。

 

この話は次回に続く。

 

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