今回は、株式譲渡の応用スキームである、第三者割当増資による支配権の移転について説明します。※本連載では、島津会計税理士法人東京事務所長、事業承継コンサルティング株式会社代表取締役で、公認会計士/税理士として活躍する岸田康雄氏が、中小企業経営者のための「親族外」事業承継の進め方を説明します。

ほぼ無税で、法人株主が譲渡対価を受け取ることが可能

株式譲渡の応用スキームとして第三者割当増資による親族外承継(M&A)がある。

 

第三者割当増資とは、対象会社が発行する新株を特定の第三者が取得することであり、増資後の持株比率次第では第三者が対象企業の支配権を取得することになる。既発行株式を売買する株式譲渡の場合、譲渡対価は株主に支払われるが、第三者割当増資の場合には譲渡対価は対象会社に支払われる点が異なる。

 

この取引スキームは、売り手と買い手が直接に取引を行わずに会社支配権を移転させるものである。すなわち、第三者割当増資による新株発行を行う一方で、既発行株式を自社株買い(自己株式の取得)を行うことによって、支配株主が売り手から買い手に移転することになる。

 

対象会社の自社株買いによって、剰余金が株主に分配され、受取配当金の益金不算入の規定を使ってほぼ無税で法人株主が実質的な譲渡対価を受け取ることができる(その分、対象会社の企業価値が低下するが、低下した価値は買い手への譲渡対価に反映されることになる。)。

売り手の株主が「法人」の場合のみ有効なスキーム

自社株買いのタイミングについては、対象会社が多額の余剰資金を抱えている場合は、第三者割当増資の実行前に行ってもよいし、余剰資金がない場合には、金銭が払い込まれる第三者割当増資の実行後に行ってもよい。

 

たとえば、100%子会社を売却する場合、まず買い手が対象会社の価値評価と同額の第三者割当増資を引受けて対象会社を50%所有し、次に増資の払込み金銭全額を用いて対象会社が売り手(法人)の所有する株式の自社株買いを行えば、結果として対象会社は買い手の100%子会社となる。売り手(法人)は譲渡対価を益金不算入のみなし配当として受け取ることができる。

 

対象会社に利益剰余金がない場合でも第三者割当増資で増加した資本金あるいは資本剰余金を減資することで分配可能利益とすることが可能であるから問題ないだろう。

 

もちろん、このスキームは売り手の株主が法人の場合のみ有効である。個人の場合は、本来であれば株式譲渡によって譲渡所得に対する所得税(20%の分離課税)であったところ、自社株買いを行うとすれば配当所得に対する所得税(総合課税)となるため、税負担が重く不利な取引スキームだからである。

 

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