今回は、会社法上の観点から「株式譲渡」「事業譲渡」の相違点を探ります。※本連載では、島津会計税理士法人東京事務所長、事業承継コンサルティング株式会社代表取締役で、公認会計士/税理士として活躍する岸田康雄氏が、中小企業経営者のための「親族外」事業承継の進め方を説明します。

「株式譲渡」の意思決定の手続きは、株主が行う

会社法の観点からこれらを比較すると重要な違いがある。

 

意思決定については、株式譲渡は、その手続を行うのは売り手である株主である。この場合、株主が法人であれば、「重要な財産の処分および譲受け」等に該当して取締役会決議が必要となるケースも出てくるが、個人であれば手続きは不要である(対象会社の譲渡承認が必要となる場合は多い。)。

 

これに対して、事業譲渡では、手続を行うのは対象事業を営む会社である。対象事業が会社の「事業の全部または重要な一部」に該当すれば、原則として株主総会の特別決議が必要であるが、そうでなければ、取締役会決議で足りる。

 

権利移転手続については、株式譲渡の場合は、単に株式を売買するだけであり、対象会社の資産および負債や権利義務はそのまま引き継がれる。

 

これに対して、事業譲渡の場合には、個別の権利移転や義務引継ぎの手続が必要であり、契約の移転や従業員の承継についても、第三者の同意が必要である。

 

それゆえ、包括的な権利移転手続きによって手続きを簡略化するために、事業譲渡の代わりに、現金交付型の会社分割が採用されることが多い。現金交付型会社分割は、税務上の効果が事業譲渡と全く同じであり、債権者保護手続が必要となるものの、権利義務の包括承継が可能となる。

会社分割よりも有利なケースもある「事業譲渡」

ただし、会社分割と比べて事業譲渡は、公告などの債権者保護手続が必要ないという点がメリットとなる。そのため、従業員や取引先の数が限られており、債権者の把握がそれほど難しくないという場合であれば、事業譲渡でも大きな手間は掛からず、また、スケジュールも短期間ですむことから、会社分割よりも有利なケースもある。

 

譲渡対価については、株式譲渡の場合、売り手は株主であり、譲渡対価は株主が受け取る。対象会社から見れば単なる株主の移動にすぎない。

 

これに対して、事業譲渡の場合には、会社から対象事業に属する資産および負債、権利義務を移転し、会社が譲渡対価を受け取る。したがって、会社の株主に対価を受け取らせるのであれば、会社の剰余金を分配しなければならない。

 

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