今回は、会社の売却における「取引スキーム」選択の重要性を説明します。※本連載では、島津会計税理士法人東京事務所長、事業承継コンサルティング株式会社代表取締役で、公認会計士/税理士として活躍する岸田康雄氏が、中小企業経営者のための「親族外」事業承継の進め方を説明します。

取引スキーム検討の目的=「利益の最大化」

親族外承継(M&A)の取引スキームとしては、株式を譲渡するスキーム、会社の事業を譲渡するスキームのほか、組織再編を活用したスキームが考えられる。

 

親族外承継(M&A)の取引スキームの選択にあたっては、 その目的だけでなく、会計面または税務面でどのような影響があるのかを検討する必要がある。なぜなら、親族外承継(M&A)の目的は同じであっても取引スキームの違いによって、売り手に入る現金額や税負担や、買い手の資金負担や税負担に多寡が生じる場合があるからである。

 

親族外承継(M&A)において最適な取引スキームを検討する目的は、税負担を最小化することによって、利益最大化を図ることにある。この目的は、第三者への親族外承継(M&A)だけでなく、グループ内組織再編の場合も同様である。

 

中小企業オーナー個人が親族外承継(M&A)を行う場合、譲渡所得や配当所得などの形で課税されることになる。しかし、取引スキームが異なれば、たとえ取引のその経済的実質が同じであっても、課税される所得、税負担が異なることになる。

スキームの巧拙は、買い手の価値評価や税負担にも影響

この点、取引スキームの巧拙は、売り手の税負担だけでなく、買い手の税負担も変え得るということに留意すべきである。

 

たとえば、非適格再編によって認識される税務上の「資産調整勘定」は、その償却による節税効果を生み出すことができるが、対象会社において資産調整勘定が認識されていたとすれば、買い手に対して節税効果の価値だけ取引価額を上げてもらうような交渉も可能となるだろう。

 

また、繰越欠損金を活用できるような取引スキームも、同様に、買い手にとっての価値評価に影響する。

 

このように、取引スキームの巧拙は、売り手だけではなく、買い手にとっての価値評価や税負担にも影響を与えるため、買い手の税負担を軽減するような取引スキームを提案することが、売り手の価格交渉を有利に進めるためのポイントになる。

 

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