今回は、会社の売却において、非上場株式を同族株主間で譲渡する際の注意点を説明します。※本連載では、島津会計税理士法人東京事務所長、事業承継コンサルティング株式会社代表取締役で、公認会計士/税理士として活躍する岸田康雄氏が、中小企業経営者のための「親族外」事業承継の進め方を説明します。

株価は「取引目的」を理解したうえで決定する

非上場株式を譲渡する際、取引目的を理解したうえで株価を決定することが重要である。なぜなら、取引当事者の関係や取引目的で「時価」の概念が異なるからである。

 

この点、純然たる第三者間の取引の場合、当事者間で価格決定するプロセスを通じて経済的に合理的な価格が形成されており、それを「時価」と理解することがでる。これが、親族外の第三者への親族外承継(M&A)のケースである。

 

しかし、同族株主間の取引の場合、取引価額は恣意的に決められる傾向にあるため、時価よりも低い株価による取引が行われる蓋然性は高い。このため、同族株主間の取引においては、国税当局の厳しいチェックが入ることになる。

 

そこで、税務上の「時価」、すなわち、税法に規定される評価方法を適用した株価を使って取引するということになる。その際、法人と個人によって時価の評価方法が異なり、「相続税法上の評価額」と「法人税法、所得税法上の評価額」を状況によって使い分けることとなる。

 

「相続税法上の評価額」とは、財産評価基本通達によって計算した評価額のことをいう。これに対して、「法人税法、所得税法上の評価額」は、基本的には時価純資産価額によって計算した評価額のことである。ただし、以下の3つの条件として、財産評価基本通達による評価が認められている。

 

① 中心的な同族株主である場合は小会社方式によること

② 土地や上場株式等は通常の取引価額で評価すること(相続税評価額ではない)

③ 評価差額(法人税等相当額37%)の控除ができないこと

 

これら3つの調整はいずれも評価額を引き上げる方向に向かうため、一般的に「法人税法、所得税法上の評価額」は「相続税法上の評価額」よりも高くなる傾向にある。

 

例えば、売り手が個人で買い手が法人の場合、「法人税法、所得税法上の評価額」が適用されることになるから、取引価額が「法人税法、所得税法上の評価額」の2分の1以上であれば課税上の問題は生じないが、「法人税法、所得税法上の評価額」の2分の1未満で譲渡した場合には、「法人税法、所得税法上の評価額」をもって譲渡したものとみなされて課税されることになる。

 

これに対して、売り手も買い手も個人の場合は、「相続税法上の評価額」が適用される。個人間の売買では、その株式の時価にかかわらず、実際の取引価額をもとに譲渡所得の課税が行われる。

同族株主間では「みなし贈与課税・譲渡課税」に注意

しかし、個人と個人との取引において著しく低い価額、すなわち、「相続税法上の評価額」の2分の1未満の価額によって取引された場合には、買い手は「相続税法上の評価額」と取引価額の差額を売り手から贈与を受けたものとされ、「贈与税」が課税される。よって、売り手が低額譲渡して譲渡損失が生じたとしても、その譲渡損失はなかったものとなる。

 

同族株主間の取引では、低廉譲渡による「みなし贈与課税」あるいは「みなし譲渡課税」の税務リスクについて十分に注意する必要がある。低廉譲渡とは、取引価額が時価に比べて極端に低い場合、その取引に経済的な合理性がないことから、税務的にはそこには贈与または利益の供与があったものとみなすものである。税務リスクを避けるためにも、同族株主は税務上の時価によって株式譲渡しなければならない。

 

\10/5開催・WEBセミナー/
節税ではない画期的な活用法とは?
遺産分割対策となる「法人契約の生命保険」

 

人気記事ランキング

  • デイリー
  • 週間
  • 月間

メルマガ会員登録者の
ご案内

メルマガ会員限定記事をお読みいただける他、新着記事の一覧をメールで配信。カメハメハ倶楽部主催の各種セミナー案内等、知的武装をし、行動するための情報を厳選してお届けします。

メルマガ登録
会員向けセミナーの一覧