今回は、会社売却時の、「クロージングの前提条件」を作成する際の注意点を説明します。※本連載では、島津会計税理士法人東京事務所長、事業承継コンサルティング株式会社代表取締役で、公認会計士/税理士として活躍する岸田康雄氏が、中小企業経営者のための「親族外」事業承継の進め方を説明します。

クロージングにおける「3つの前提条件」とは?

クロージングの前提条件とは、(1)表明保証の対象がクロージング日において正確であること、(2)誓約事項の義務がすべて履行されていること、(3)クロージングに必要な手続き(機関決定、承認手続、組織再編など)が完了していることを、取引実行するための「前提条件」とするものである。

 

条件交渉がまとまり、譲渡契約書に調印すれば、売り手は、そこからクロージングの前提条件を満たすための作業(誓約事項の義務の履行)を進め、クロージングに備えることになる。

 

たとえば、事業の一部を売却しようとする場合、クロージング前に会社分割を実施したうえで株式譲渡を行う取引スキームが採用されるケースがある。

 

この取引スキームの場合、契約締結日の翌日から会社法上の会社分割の手続きを始めるため、契約日からクロージング日まで1カ月以上の期間を要する。それゆえ、クロージングの前提条件は、(1)会社分割が適法に実施されたこと、(2)契約書に記載した資産・負債及び契約が新設会社に承継されたことになる。

 

クロージングの前提条件を満たすためにいかなる手続が必要かは、個々の案件ごとに検討しなくてはならず、場合によっては法務、税務、会計などの各専門家への問い合わせを行い、過不足なく手続を進めることが欠かせない。

 

また、クロージングの前提条件が履行されたかどうかは、できる限り書面で証明できるようにすべきである。

 

特に、外部の第三者を交えることなく、売り手と買い手の確認のみによって前提条件が満たされるような場合には、対象となる前提条件が満たされたこと、売り手と買い手それぞれの責任者名等を記載した書面を作成して、互いの認識に齟齬が生じないようにすることが望ましい。

 

[図表1クロージングの前提条件

軽微な違反がクロージングに影響しないように配慮

クロージングの前提条件は、取引中止という異常事態へと導くものであるから、軽微な表明保障違反を原因に中止になるような厳しい前提条件を設けることは危険である。

 

そこで、クロージングの前提条件には、重要性の限定(「重要な点において」)を付すように買い手に求め、軽微な違反がクロージングに影響を与えることがないようにすることが一般的である。

 

また、誓約事項の違反に対する手当てを設けておくことも有効である。たとえば、「クロージングまでに義務を履行できなかった場合、取引価額を●●円減額する。」といった条件の設定が考えられる。

 

クロージングの前提条件に掲げられている事項が一つでも充足できなかった場合には、買い手はクロージングを行う義務を免れ、その取引から手を引くことが可能になる。売り手としては、クロージングできなくなる最悪の事態だけは避けたい。

 

[図表2]表明保証違反の効果

「前提条件」を満たせない場合は、再度交渉を

クロージングの前提条件を充足しようとしても、結果的に充足できない場合もある。そのような場合、再び交渉が行われる。

 

その交渉では、(1)クロージングの前提条件が充足できるまでクロージングを延期するのか、(2)取引価額の減額によって解決するのか、(3)いったんクロージングして事後的に解決することを売り手の義務とするなどの対応策が協議され、クロージングのための追加的な契約(クロージング契約)が締結されることになる。

 

クロージング契約書

 

クロージングの前提条件が充足されたことの確認

充足されなかった前提条件がある場合の対応策

(1)クロージングの延期

(2)取引価額の減額

(3)クロージング以降に解決することを売り手の義務とする

 

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