会社の売却・・・売り手・買い手に課せられる「誓約事項」とは?

今回は、会社の売却における「誓約事項」について説明します。※本連載では、島津会計税理士法人東京事務所長、事業承継コンサルティング株式会社代表取締役で、公認会計士/税理士として活躍する岸田康雄氏が、中小企業経営者のための「親族外」事業承継の進め方を説明します。

各当事者が行うべき、または行ってはならない「義務」

誓約事項(コベナンツ)とは、各当事者が行うべきまたは行ってはならない義務のことをいう。これは時期によって分けられ、契約締結日からクロージング日までの義務と、クロージング日以降の義務がある。

 

[図表]誓約事項

 

クロージング「前」に「行うべき」義務の代表例は、契約締結日からクロージング日までの期間において、対象会社が、ビジネス上、財務上ほとんど同じ状態に維持されることを売り手の義務とすることである。

 

具体的には、善良なる管理者の注意義務を持って、通常の業務の範囲内で運営が続けられることが義務付けられる。買い手としては、買収する対象会社の事業価値が知らないうちに毀損してしまうと困るからである。

 

また、デュー・ディリジェンスで検出された問題点をクロージング日までに解消させておくことを売り手の義務として課す誓約事項が多く設けられる。

 

たとえば、重要な取引先との取引基本契約にチェンジ・オブ・コントロール条項(株主が変わる場合には、事前の同意を必要とする規定)が含まれている場合、売り手がクロージングの前に売り手が取引先の同意を得ることを義務とする。

 

売り手の立場からすれば、誓約事項の義務を履行することができず、クロージングできなくなるリスクを可能な限り減らしたいと考えるから、誓約事項は極力減らすようにしたい。

 

クロージング後の代表例は「競業避止義務」

次に、クロージング「後」に「行ってはならない」義務の代表例は、競業避止義務である。競業避止義務を規定するのは、取引実行後に、売り手が同じ事業をゼロから再開して競業するとすれば、対象会社の収益性が低下し、価値ある事業を買収しようとした買い手の目的が達成されなくなるからである。

 

当然のことであるが、クロージング後における売り手の義務は、クロージングの前提条件とはならない。よって、義務を履行できなかった場合、売り手は、買い手から違反に起因する損害の補償を求められることになる。

 

一方、買い手側の誓約事項として出てくるのが、従業員の継続雇用および処遇維持の義務である。買い手にどれだけの期間、雇用維持を義務付けるかが問題となるが、M&A実務で多いケースは、1年間から2年間である。

 

クロージング日以降は、対象会社は従業員の解雇によって発生する損失は買い手が負担することになる。また、雇用維持を誓約事項とした場合であっても、買い手が従業員に対して直接の義務を負うものではない。

 

仮に従業員を解雇するような事態が生じたとしても、売り手には何も損害が発生をしないので、補償などの責任追及は実質的に不可能である。そうであっても、売り手は従業員の継続雇用を求めるのである。

島津会計税理士法人東京事務所長
事業承継コンサルティング株式会社代表取締役 公認会計士/税理士

一橋大学大学院商学研究科修了(会計学及び経営学修士)。 公認会計士、税理士、中小企業診断士、国際公認投資アナリスト(日本証券アナリスト協会検定会員)。日本公認会計士協会経営研究調査会「事業承継専門部会」委員。
中央青山監査法人(PricewaterhouseCoopers)にて会計監査及び財務デュー・ディリジェンス業務に従事。その後、メリルリンチ日本証券プリンシパル・インベストメント部門(不動産投資)、SMBC日興証券企業情報本部(中小企業オーナー向け事業承継コンサルティング業務)、みずほ証券グローバル投資銀行部門(M&Aアドバイザリー業務)に在籍し、中小企業オーナーの相続対策から上場企業のM&Aまで、100件を超える事業承継と組織再編のアドバイスを行った。

WEBサイト https://jigyohikitsugi.com/

著者紹介

連載中小企業経営者のための「親族外」事業承継の進め方

 

 

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